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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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振動世界2

 ヒューゴ君の(ひらめ)きはとても素晴らしい。

 私は、私の知識の中から凡人の思いつきで物を語ることしかできない。


 知識を持たないヒューゴ君が、何もないところから想像だけでその時々の状況に応じた最適解を見出してしまう。


 無から有を生み出すことと、同じぐらい凄いことだ。


 なぜ彼が鋏を閉じれば、この状況を打開できるという発想に至ったのかは分からない。

 でも、ひと度彼が言葉を発したなら、私は彼の言葉を理解することができる。




 うん、いや、ほとんどは理解できる、かな。




 私に指示をした意味はあると思う。


 鋏を閉じるだけなら、ヒューゴ君にだってできる。

 彼が私から鋏を取って自分で鋏を閉じれば良い。

 でも、わざわざ言葉にして、私に鋏を閉じることを指示した。きっと意味があるのだと察した。


 ヒューゴ君が窒息という死の要因から逃れる前の最後の死の直後。

 つまり、私が彼の後を追うように死んだ直後だね。


 鋏を懐から取り出して、しっかりと刃を綴じて手で握る。


 再びヴォルミルの魔法に(さら)され、身体が振動に耐えられなくなってしまったけれど、鋏さえ手に持ってしまえば後は何とかなるさ。


 後は魔力を放出しするだけ。

 手が万全なら直接魔力を流し込めるけれど、今の私は手から魔力を放出する管が壊れている。

 でも、手からでなければ放つことはできる。


 ただの魔法使いが無闇やたらに魔力を放出しても、鋏に十分な魔力を注ぎ込むことは難しいと思う。

 でも、私の魔力量だったら、何も考えずに魔力を手当たり次第放出しても、鋏が使えるだけの魔力を流し込むことができる。




 頭がぐらぐらして魔力の制御なんかできっこないから、ただただ魔力を放ち続けた。




 そして、振動が止まった。


 身体が自分の意思で動かせるようになった。


 鋭い痛みを感じて、痛みの元になっている口を開けてみると、ぽとりと口から柔らかい物が落ちた。


 ヴォルミルだけじゃなくて、私も、ヒューゴ君も、口から血が溢れていた。


 鋏に込められた魔法陣が効果を発揮し、周りにいた私たちの舌が切り取られてしまった。




 舌がなくなって、いよいよ魔法の詠唱もできなくなった私の代わりに戦ってくれたのは、彼だ。


 彼は泥から這い出て、手頃な石を手に取った。

 口から血が出ていることなんか気にも止めずに、ヴォルミルに猛進する。

 ヒューゴ君の接近に気付いた彼女は、口を開けて再び振動を起こそうとする。

 舌が切れていても叫べば効果を発揮する彼女の魔法は、彼が手を突っ込むことで回避された。


 まず切断した舌の傷口が痛むだろうね。

 その後、呼吸ができなくて暴れるだろうね。

 彼は暴れる彼女を大人しくさせるみたいに、石を持った手で、頭を何度も殴打した。


 頭がへこんでしまうくらいの、大きな振りかぶりと力強い振り下ろしで、彼女は初撃で沈黙してしまう。

 でも、彼は彼女が再び目を覚ますことを恐れて、2度3度と石で殴打した。


 ヒューゴ君にしては珍しく野蛮で、容赦なかった。

 白衣(はくえ)の魔女との旅の間に、彼は随分と野生味溢れる男になったみたい。




 その間に私は何をしていたかというと、落ちていた舌を拾っていた。


 勿論、オルラヤ君に私とヒューゴ君の舌を治してもらうためだよ。

 治療のことなら彼女に任せるのが1番だということは、良く理解しているつもりだからね。


 まだ足場の悪い地面をゆっくりと歩いて、夜明かりを頼りに見つけた2枚の舌を懐にしまう。


 その間に彼はヴォルミルを殴り終わっていた。


 彼の性格を知っている私だから、彼がヴォルミルを殺していないことは分かるよ。彼は殺さないで済むのなら相手を殺さない。彼はそういう性格だ。


 でも、さすがにヴォルミルは死にかけている。

 表情が分からなくなるくらい真っ赤に染まった顔面は、明らかに瀕死の魔女そのものだ。




おおえおわっあおあ(これで終わったのか)?」

あういいええ(ある意味でね)

「ん?」

ああいおあうおう(私の反則)あえあお(負けだよ)


 ヒューゴ君はヴォルミルから手を離して、顔を青ざめさせた。

 ちょっと面白い。

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