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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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舌切り鋏7

 檻とは言ったけれど、中は快適だった。

 鎖で繋がれている訳でもないし、轡を噛ませる訳でもない。

 ベッドは質が高く、ふかふかで寝心地は良い。牢屋の外に暖炉があって冬でも部屋は暖かい。

 格子が組まれているけれど窓もあって、昼夜の判断ができた。


 悪いことをした者を閉じ込めておくには、豪奢(ごうしゃ)が過ぎる。


 本当の罪人を閉じ込める牢屋とこの牢屋は、役割が違うのかな。

 そうでもなければ、不審者の認定をされた私が、豪勢な朝の食事を食べられるはずがない。




 食事が終わった後、牢屋の前に2人の男が来て、改めて私への尋問が行われた。


 名は何と言うのか。


「魔女のルールで気軽に誰かに名前を明かすことはできないけれど、皆には黄衣(おうえ)の魔女と呼ばれているよ」


 なぜ、あの場にいたのか。


「舌切り騒ぎの犯人を捕まえるために、リッケルという商人に依頼されて貧民街を見張っていたんだよ」


 舌を切られた神父と何か関係があるのか。


「神父に許可を得て、教会で見張りを行っていたからだよ」


 なぜ呼び止めに応じなかったのか。


「別の場所で調査をしていた私の大切な騎士を呼び戻すために、そちらを優先したのさ」


 質問には真摯(しんし)に答えたつもりだったのだけれど、なぜか私が回答をすればする程怪しまれてしまう。




「依頼人のリッケルって、3番街の豪商リッケルか?」

「何番街かは知らないけれど、海に近い方に住んでいる男だよ」

「十中八九、あのリッケルに間違いないが、後で確認を取ろう」


 2人だけで相談をした後、2人とも一層私のことを疑っている眼差しを強めて向けて、そしてこう述べた。


「名を明かさない。リッケルという悪徳商人と関わりがある。被害を受けた神父とも関わりがある上、騒ぎが起きた場所にいた。挙げ句、その場所から逃げようとしていた。余りにも怪し過ぎる」

「なるほど、確かに怪しいね」


 男の推察に一考の余地なく私が不審者であることに気付かされて、率直な感想を述べたつもりだったのだけれど、それすらも疑いを強める言葉になってしまったようだ。


「見た所15歳もいかない若い娘に見える。そんな娘が、牢に閉じ込められて一切の動揺も見せないその言動も怪しい」

「若く見られることは嬉しいことだけれど、もしかしてそれは身体を見て言っているのかい? それなら悪いけれど、私はこれでも1人の男の理性を失わせる程、性的な魅力を持った大人――」

「そんなことは言っていない! とにかく、もうしばらくここにいてもらうからな。大人しくしていろよ」


 尋問が終わり2人の男はこの場から立ち去ろうとしていたので、私は慌てて牢の鉄格子に顔をめり込ませて2人に質問をした。


「ちょっと待って。昨日私を捕まえた時に、近くに黒髪の男がいたでしょう?」

「そんな奴はいなかったし、昨夜はお前を捕まえた直後に、大きな地割れがあって住民を避難させるのに必死でそれどころではなかった」


 男たちは言い切ってから、扉を閉めて鍵を閉めてしまった。


 きちんと質問に答えてくれる辺りは、優しいというか紳士的ではあるね。オーフラやサルザスの国とは大違いだ。




 しかし、男の返答には困った。非常に困った。


 ヒューゴ君が迎えに来てくれると思って期待して待っていたけれど、彼が来ていないことと、私が気絶する前に、彼が地面の下に消えてしまったことを鑑みるに、彼の身に何かあったことは間違いない。

 それか、別の女といちゃいちゃしている可能性もある。あ、何だか苛々してきた。


 オルラヤ君やクロウモリ君も来てくれないことを考えると、2人の身にも何かあったことは間違いない。




 まずはヒューゴ君の魔力を手繰り寄せる所から始める。


 彼の位置をはっきりさせたい。

 彼を見つけた後は、すぐ近くに別の女がいないか調べる必要がある。


「ふふん、久し振りにわくわくしてきたよ」


 おっと独り言が自然と出てきてしまった。




 牢は静かで魔力を感知する環境としては最高だった。


 感覚はすごく研ぎ澄まされている。

 目を閉じていても彼の色が分かるくらいだ。




 魔力石に詰め込まれた魔力や、街中にいる数多の生物が持つ魔力の色を除外して、彼を見つけた時、彼の色は他の色と高さが違う所にいたことが分かった。


 彼と同じ高さにいる別の色はちらほらと見受けられた。


 男の地割れの話を加味すると、割れた地の下に何人かが落ちてしまったと想像できる。


 彼のすぐ横に別の色があった。


 ちょっと、ちょっと。

 2人の色が相当近いよ。色が混ざり合うのではないかっていうぐらい近い。

 怪我の様子を見るにしても、そこまで近付く必要はない。身体を重ねているはずだ。


 ヒューゴ君に男好きの気がなければ、間違いなく女だ。

 魔力の色で男女の判別はできないけれど、女だよ。絶対、女。


 これはもう黒だね。2人の魔力の色が黒っていう意味じゃないよ。




 2色を注視し続けた。

 しばらく時間が経っても、2色はくっつき合ったままだった。




 うん、悪い考えが浮かんでしまったから、一旦呼吸を整えてから落ち着こう。

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