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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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舌切り鋏3

「ありがたい! どうか犯人を捕まえてください!」




 屋敷を出る前に、最後に放ったリッケルの言葉で私が聞こえた言葉はそれだった。


 でも、ヒューゴ君は、私が聞こえなかった別の言葉が聞こえたみたい。

 彼が聞いた言葉が何かを、彼は私に教えようとしたがらなかったから、私に対する悪口が聞こえたのだと何となく察することはできた。


 リッケルの頼みごとなんかより、ヒューゴ君の耳にどのような私への悪口が聞こえたのかということの方が、よっぽど興味があった。




「俺が聞こえた言葉よりも、切りつけられた者が皆、舌を切り抜かれているなんて話の方が、余程重要なことだろう」

「同意ですね……もぐ」


 彼は、偏執的に1つの部位を切り取ることを、魔女かそれに近い者の仕業だと推測した。

 彼の想像する魔女は、特定のことに執着しすぎるきらいがある。だから、リッケルの話を聞いてすぐに、犯人を思い浮かべたらしい。


 オルラヤも同意見みたい。


「切りつけが起きた現場に向かえば、もしかしたら魔力の残り滓でも見えてくるかもしれま……もぐ」


 彼女は途中で喋ることを止めて、その辺で買った甘味に集中し始めた。

 食べたことはあるけれど、集中して食べる程目覚ましく美味しいものではないから、それだけ夢中になれるオルラヤは舌が馬鹿なのではないかと思えた。




「もう暗くなってきた。家に置いてきたネリネのことも心配だし、調査はまた明日にしよう」


 ヒューゴ君の提案を断る理由もなかったから、私たちはそのまま帰路についた。




 街を外れた所に置いてきたヴィルケに後ろを牽いてもらえば、大した時間はかからない。


 巨体だからこそ、障害物を排除しながら直進し続けられるのは、大馬の魔物の良いところだと思う。

 ヒューゴ君は破壊を好まないけれど、獣道ですらない森を突っ切った所で、誰に怒られる訳でもないから私は気にする必要はないと思うけれどね。




 その日のうちに家に戻って、ヒューゴ君はネリネの様子を見に行った。

 オルラヤの従者たちが食事を用意してくれていたけれど、大半は彼女に荒らされていたみたいで、机に並んでいた皿は寂しいものだった。


 従者たちも、これで少しは私の気持ちが分かってくれたでしょう。




 自室は足の踏み場もない。

 魔法の研究に必要な材料をそこかしこに置いて、いつでも研究に没頭できるようにしているからだ。これが私にとって最良の状態。


 決して私がものぐさな訳ではない。


 以前ヒューゴ君に「家ができて始めの方は、綺麗に片付けていたのにどうしてこうなった」なんて言われたけれど、ものぐさな訳ではない。




 それでも気付けば魔法の研究に没頭してしまう。

 今が夜か朝かなどは気付かないまま。




 今日作ってみた魔法の出来はどうかと、紙に描かれた魔法陣を冷静に眺め直して、くだらない魔法だと思ったので紙を破いて捨てた。




 新たな魔法を作り上げる時には、紙に魔法陣を描くところから始まる。

 生み出す魔法の性質は、過去の経験と知識を積み重ねてきた魔女たちの記憶と、書物という形で残された物を使えばどうにかなる。


 今に生み出される魔法は、遠い昔に生み出された魔法を改良して、効率とと効果を変容させたものがほとんどだ。


 だから、この世界で素晴らしい魔女としての地位を得る者は、変容させた効果が過去にない魔法であることが重要視されることが多々ある。


 1から魔法を創り出すなんてことは、普通の魔女はしない。それこそ不老不死にでもならないと、とてもじゃないけれど時間が足りない。

 魔女が不老不死を求めやすいのは、不足した時間を補うという理由が大きいからだろうね。


 でも、仮に限られた時間の中で、どんなにすごい魔法を作り出せたとしても、その魔法を使用するために必要な魔力が不足していれば、それは宝の持ち腐れにしかならないし、他の魔女に笑い者にされるだけだ。


 誰も見たことのない魔法を作って、きちんとそれを使えて初めて、私たちは魔女として認められる。


 故に最初から魔力をたくさん扱える私が、他の魔女に妬まれて多少の意地悪をされることは必然なのだ。

 私を操り、私を介して、素晴らしい魔法とやらを使えるようにするために行われた行動は、私を捕まえた人間たちと余り変わらない。

 罪な女だね、私は。




「リリベル、まだ起きているのか」




 部屋の外でヒューゴ君の声が聞こえて、すぐに彼を迎え入れた。

 行き詰まった魔法の研究に、彼との触れ合いはすごく良い薬になる。



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