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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第22章 順不同の奇跡
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噛み合わないおさらい2

 俺たちの会話は自然と止まり、向こう側の男に焦点が合う。


「彼を呼び止めて、ヒューゴ君はどうするつもりなのかな?」

「分からない。分からないが、なぜか奴と話さないといけないという気がしている」

「理由はないけれど、会わなければならない、と。ふむ、曙衣(しょえ)の魔女の魔法の強制力によるものかな」


 リリベルは俺を置いて勝手に結論をつけて、黄金の杖を前に差し出し、躊躇なく雷を放った。




 杖から放たれた光が真っ直ぐに放たれ、六角のシュトロギーがいる地点で光が炸裂する。


 さすがに戦うとは言っていない。

 ただ、話さなければならないと思った。足が勝手に奴に向かって歩いているだけなのだ。


 だから、好戦的なリリベルにひと言ってやりたかった。


 しかし、言うよりも前に、眼球がリリベルを捉えるよりも前に、向こうで飛び散った光が、いつもと違う動きをしていることに気付き、目がそれを追った。




 何かが起きると察知して身体が勝手に動いた。


 リリベルの前に出て受け止めたのは、雷だった。

 身体に光が触れたと知覚した瞬間、無となる。頭からつま先まで真っ白になったとでも言えば良いのか。


 何も考えられず何も動かせない。


 逆に言えば、起きたことはそれだけだ。


 光が終わって、視界が戻って自分の身体を確認した時には、福だけ焼け焦げて、肌はいつも通りだった。


 即死したのだと悟った。




「雷を扱う魔女に雷で返して来るなんて、良い度胸だね」




 リリベルがやる気になってしまった。


 しかし、果たして今の攻撃は本当にシュトロギーによるものなのか。


 もし、今の雷が奴の魔法によるものだとするなら、当然の疑問が生まれる。


 なぜ、俺と戦った時には奴は魔法を使わなかったのか。




 リリベルはもう1度雷を放った。


 彼女の魔力に見合った黄金の杖は、魔力の制御を極限まで高め、少ない魔力で莫大な威力を生み出す。


 威力が余りにも強すぎて、中途半端な魔力を持つ者では、そこらにいる単なる村人とさして変わらない。


 歪んだ円卓の魔女たちでやっと、彼女の雷を受け切ることができるかどうかというぐらいだ。




 だから、剣で戦うだけのシュトロギーでは、絶対に彼女に敵うはずがない。




 彼女の雷を受けて生きていられる訳がない。




 それなのに、奴は爆音の中で影を保ち、全く同じ光を此方に投げ込んでくるのだ。




 身体の表面が音で叩きつけられ、シュトロギーの周囲の石が巻き上がり、粉々に砕け飛ぶ。

 それ程の衝撃を生む、最早雷と呼べるか怪しい魔力の塊を奴は食らっておきながら、リリベルと同じことをやり返してきた。




 リリベルはムキになっていた。




 受けた挑戦から決して退くことはしない。

 雷を放られて、避けるなんてことはしない。


 彼女の盾となって前に出ていたが、やがて彼女自身が俺より前に出てしまう。


 杖に込めた魔力でシュトロギーの雷を弾き、詠唱する声は徐々に大きくなる。




 飛来する爆音の間隔が徐々に近付いていき、魔法を放つ者同士として、明らかに適切ではない距離に達する。




 その魔法の応酬を止められるのは俺しかいなかった。


 リリベルを後ろから抱きかかえ、そのまま反転して彼女を置く。


 俺の行動が意図するところを即座に理解して、それでも不満な顔で彼女は次の雷を放つことを止めた。


 最後に放たれた雷をリリベルが弾いてやっと応酬は止まった。




 しかし、また次の応酬が始まってしまった。


 雷の音に釣られて、クロウモリやオルラヤが慌てて来た。

 奥にいるシュトロギーを一瞥するなり、オルラヤが氷の華をシュトロギーがいる地点に咲かせる。


 血気盛んが過ぎる。




「オルラヤ! 待て!」


 オルラヤに両手を大きく振って見せて、彼女に近付こうとした歩を進めた瞬間に、足元でバリッという音がした。


 もう1度似たような音が聞こえると、姿勢を保っていられなくなり、前のめりに倒れてしまう。


 石畳一面が氷漬けになっていた。




 反射で両手を前に突き出したことで、両手は石畳に貼り付き、水分が一瞬で凍る。

 まるで硝子のように両手は石畳の上のオブジェの一部となった。




 シュトロギーの能力が何となく分かった。




 身体だけ動かして、シュトロギーを見やる。




「ヒューゴさん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。死んだだけだ。」


 オルラヤとリリベルが周囲の氷を払ってくれたおかげで、2度目の氷漬けからは免れた。




 シュトロギーからの追撃はなかった。


「ヒューゴさん、あの男は一体誰なんでしょうか。私の魔法が効きません!」

「魔物であること以外は俺も分からない。だが……」




 オルラヤの問いに答えている間も、シュトロギーはずっと遠くから俺たちをただ眺めていた。




 話しながら1歩進む。


 シュトロギーも1歩進む。




「今、新たに分かったことがある」


 もう1歩進むと、奴も同じように進んだ。


「恐らく奴は、俺でなければ倒せない。そして、此方から攻撃しなければ奴は攻撃しない」


「オルラヤ、クロウモリ、リリベル、決して手出しはしないでくれ」




 もう1歩進むと奴は2歩進んだ。

 リリベルが俺の袖を摘みながら付いて来た。


「ああ、理解したよ。ヒューゴ君。ぞくぞくしてきたね」


 気持ちの切り替えの早いリリベルの行動と心情を読み取るのは、常人であれば難しい。

 だが、俺なら分かる。


「付いて来るだけだぞ。次はいきなり攻撃はしないでくれ?」

「勿論だとも。君だけが頼りになる状況に置かれていると分かったら、いつもより胸が熱くなってきたよ」


 オルラヤとクロウモリはその場に立ち止まり、様子を見ることに決めたようだが、リリベルは絶対に離れないという意志を感じた。


 彼女が攻撃をしないなら、どの距離にいてくれても構わない。

 そう思いながら、摘まれていた袖から手を離してもらい、繋ぎなおす。


「……惚れ直したと言いたいのか?」


 奴は2人分の歩みで俺たちと距離を縮め、そして顔の判別が容易にできる位置にまで辿り着く。


「直した、ではなく、もっと好きになったが正しいかな」




 直接的な好意の表れに胸が高鳴るが、その余韻に浸る間もなくシュトロギーが顔をしかめて言った。


「最低だ。また、情事の最中か」


 手を繋いで好意を言葉にしていただけで、色事と判断する極端な魔物の男は、リリベルとオルラヤの魔法に直撃された後も平然としていた。


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