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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第22章 順不同の奇跡
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正しい頃合い3

目が動き回る景色に追いつけなくなる。

色の付いた線。そうとだけしか表現できない。

何が過ぎ去っているのかを、どれだけ注意深く眺めても、何1つ認識はできない。

認識できないまま、景色の終点に辿り着く。


無数の線が収束し、様々な色が点となって1つの視界を作り出す。

点の塊が、空を作り、建物を作り、生き物を作った。




点の動きが完全に静止すると、元のありふれた世界に帰ってきたと五体で実感する。

だが、そこは森ではなく全く別の場所であった。




手に握っていた物は棒切れだったはずなのに、なぜか人を殺せる重みを感じさせる剣を握り締めていた。


刀身は血塗れだった。


あちこちで怒声が飛び交い、爆発音と共に炎が直上する。




足元は一面が石畳で舗装されており、どこか誰かの生活圏であることは察せられた。


この場が平穏でないことは、誰がどう見ても分かる。

だから、なぜ持っているのか分からないままに、剣を構えて周囲を見渡した。


周囲の様子を落ち着いて確認できる場所を確保したかった。




だが、残念なことに周りは開けていた。


何体もの死体が横たわっていて、血溜まりがいくつも出来上がっている。

すぐ近くにいる者は死体だけだった。血を塗りたくった剣とそれらを交互に見て、予感したくないことが脳裏に無理矢理刻み込まれてしまう。




遅れて生まれた混乱を、頭が咀嚼する前に、片腕が勝手にあらぬ方向に向かった。

勝手に動いた腕を確認すると、矢が突き刺さっていた。


今、正に矢を射られたのだと、気付く頃には、追加の矢が横から何本も撃ち込まれていた。


体の右側に異物感をやけに感じるようになり、それらを確認しようと身体を動かすと激痛が無限に走る。


半回転して、そのまま倒れて、身体中に矢が刺さっていることを認識した。

身体の中で留まった矢じりは、自身の怪我の状態を確認しようとすればする程、ごりごりと身体中で音を立たせた。




これまでの経験ですぐに分かる。


矢だらけになった俺は、すぐに死ぬことはない。




五月蝿い足音が、石畳を伝って身体に知らせる。




すぐにやって来た何人ものエルフたちが、俺を上から見下ろし、間髪入れずに腰に提げていた短刀を抜き、一斉に切っ先をこちらに落としてきた。




理由は分からないが、どうやら俺はエルフたちの怒りを買っている状況らしい。


早く殺してくれる分には良い。

短刀で刺されるより、矢で射られる方が痛いということは、今回の生においては良い教訓になった。




1度死んだおかげか、少しは冷静さが取り戻せたかもしれない。




再び、目を覚ました時にはエルフたちはそこにはいなかった。


矢は横たわっていたその下に何本も置かれていて、身体から抜け落ちたことが分かった。

死ぬタイミングによっては、矢が刺さったままで生き返った可能性もあったので、この点においては運が良い。




では、その運の良さで今の状況を良しとできるかと問われたら、全く違う。




これは、曙衣(しょえ)の魔女が俺に見せている幻覚なのだろうか。


いや、よく考えてみろ。

あの魔女が奇跡を引き起こすことを最も喜ぶべき質だということを考えれば、幻を見せつけることなんてしないだろう。


奇跡は現実で起こしてこそ奇跡を実感させるはずだ。




そこまで考えて、頭の中にはもう誰もいないことを悟る。

俺の心を読み取って、野次を飛ばす魂はこの中には存在しないのであった。




曙衣の魔女の奇跡は俺に対して直接、恩恵を受けることはない。


それは彼女自身が言っていたことだ。

だから、俺は間接的に奇跡の一端に巻き込まれる形でしか、奇跡を実感することはない。


つまり、俺以外に見覚えのないこの土地へ吹き飛ばされた誰かがいる。

その誰かが受けた奇跡に、俺は巻き込まれている。


その誰かを探さなければならない。

それがリリベルにしろ、ネリネにしろ、クロウモリたちにしろ、この混沌とした状況に取り残されているかもしれないと思うと心配だ。




掬い上げた命を、またこぼす羽目になる予感はどす黒い炎から感じられた。


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