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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第22章 順不同の奇跡
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奇跡的な戦い

 倒せると思っていた剪裁(せんさい)する者が2人になって、焦った。

 馬鹿みたいな耐久力も相まって、増えるということは単純な不死よりも(たち)が悪い。




 どうやって奴を倒せば良いか、頭の中で考えを巡らせていた。




 目の前にいる奴を視界に確実に捉えていた。




 それなのに、瞬きをした次の瞬間には、全く別の人物が目の前にいた。

 頭の中の考えが静止し、身体も動かなくなってしまう。


 そんな俺の情けない様子を目の前の女は楽しそうに眺めてから、俺を出迎えた。


「想定外だが、これも奇跡よ」

「もう1度説明した方がいいかも知れないね。ヒューゴ君、彼女は曙衣(しょえ)の魔女と言うのだよ」


 俺の背中から顔を出して、リリベルが言った。


 彼女の言葉で我に返り、ここがどこなのか、ネリネや他の者たちがどこにいったのか確認を始める。


「この場にいるのは、黄衣(おうえ)の魔女と貴方だけよ」


 確認はすぐに終わった。

 リリベルの言う通り、ネリネたちはいなかった。


 巨木を輪切りにした円卓があり、周囲を取り囲むように等間隔に12脚の椅子が並んでいた。

 円卓の中央部分には巨大な宝石があり、妖しく煌めいている。

 天井は遥か上まで高く上っていて、声は途方もなく大きく響く。


 魔女協会の聖堂だ。


「ヒューゴ君は恐らく知覚できていないだろうけれど、私と君は彼女の魔法で、ここに到達させられたのだよ」

「一瞬でか? まさか、瞬間移動の(たぐい)か?」

「うーん、残念だけれど、彼女が使う魔法を、君が好む合理的な説明でつけることは難しいかな」


 リリベルが言葉で説明することを放棄することは珍しい。

 それ程、曙衣(しょえ)の魔女が使う魔法が、この世界の潮流から外れた外道な魔法なのだろう。




 時間があれば、曙衣の魔女の魔法について尋ねたところだが、今はネリネたちが心配だ。

 一刻も早く彼女たちのもとへ戻るために、今は大人しく曙衣の魔女の話を待つしかない。

 魔女の茶番に素直に従うことが、この場合の最も手っ取り早い話の進め方になるのだ。


 リリベルが黄衣の魔女としての円卓の席に着いても、曙衣の魔女はそこに立ったままであった。

 それだけで少なくとも彼女は『歪んだ円卓の魔女』ではないことが分かる。


「私の騎士が早く元の場所に戻りたがっているみたいだから、手短にね?」


 リリベルが俺の焦りを察し、曙衣の魔女に伝えてくれた。


「では単刀直入に」


 曙衣の魔女は朝ぼらけのマントをはためかせてから続けた。その行動に意味は恐らくない。


剪裁する者(スケイズマン)の殺し方を教える。貴方たちは1人でも多く彼を殺すのよ」


 リリベルは「興味がない」と一蹴するだろうが、俺は興味がある。

 ネリネやクロウモリたちを守るために、奴を殺す手段は必要だった。


「今、貴方たちが戦っている剪裁する者(スケイズマン)は各地で猛威を振るっている。魔女を始めとして、各地の猛者が彼を亡き者にすべく戦っている。しかし、殺し方を知らない者ばかりで彼の数は増えるばかり」

「私だけを呼び寄せたことも、そこに繋がってくるのかな?」

「はい。彼を倒すには、ある程度の火力が必要だから」


 曙衣の魔女は懐から本を取り出し、頁をめくりながら言う。

 薄汚れた本は、かなり年季が入っていて、相当の時間を経ているようだった。

 お目当ての頁で止まると、彼女は紙をなぞり始めた。


「時間がないので、実際に。私がただ言葉で伝えるより、『歪んだ円卓の魔女』が実践し得た情報を、その目で見てもらう方が理解は早いかと」




ありふれた奇跡(ファニーサニー)




 詠唱と共に、また視界の変化が始まった。


 時間の経過と、次に映る目の外の情報から、頭が下した判断は瞬間移動だ。


 高速で景色や人が過ぎ去って行き、まるで俺だけが世界から取り残されたようだった。俺が動いているのか、周りが動いているのか判別はつかなかった。


「不思議だ。私の奇跡が効かないなんて」


 朝焼けが横からやって来た。

 顔の血色は良いのだろうが、夜が混じったマントのせいで、印象は少し悪く見える。

 髪は栗色で余計に朝方に見える。


 線のように流れていく景色たちの中で、確かな姿を見せる朝ぼらけは顔をしかめながら言った。


「美味しい食事にたかる蝿のように、黄衣の魔女の奇跡に付いて回る男。それは正に奇跡的なことであるのに、貴方自身の奇跡ではないことが奇跡的」

「きせき……ん?」


 奇跡奇跡と言われ過ぎると、言葉の意味を理解することが遅れるからやめて欲しい。


 目で見える逡巡の中で少しばかりの一瞬を使って、彼女がなぜ俺に奇跡が起きないのかを問われていることが分かった。

 分かったので返答した。


「これは黄衣の魔女にかけられた呪いによる効果のおかげだ」

「……魔女に呪いをかけられてニヤつくとは、相当な狂乱者。しかし、納得ね」


 ひと思いに死ぬことができたらどんなに楽だったかという経験を幾度となくしてきた俺が、不死の呪いを自慢げに話す訳がない。

 故にニヤついてなどいないはずだ。


 次の言葉を繰り出さないでいると、曙衣の魔女はゆっくりと手を伸ばしてきた。


 それが俺の肩にその手が掛かろうかというところで、細長い無数の線がピタリと止まり、景色が出来上がる。


 2人となった剪裁する者(スケイズマン)は4人となってクロウモリとオルラヤ、ネリネ、そしてペットのアイワトラを取り囲んでいた。

 2人を4人にしてまだ尚、形を保っていられるのだから、彼等はやはり強い。

 ネリネもだ。


 しかし、僭越(せんえつ)だが、形を保っていられない者からの意見として、馬鹿力の塊が4人に増えたことは良い状況ではない。


 更に、曙衣の魔女は俺とリリベルを含めて、4人の力の塊にあえて囲まれる位置に移動させていた。

 その状況にさせた彼女にも、ある意味で驚嘆を隠せない。


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