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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第22章 順不同の奇跡
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偶然の魔3

身動きができるようになった瞬間に、剣で奴の背中に刃を突き入れた。

刃は立たないだろうと想像していたが、驚く程に刃は何の抵抗もなく突き刺さった。


しかし、剣をもう1度抜くことはできなかった。


剪裁する者(スケイズマン)が体勢を変えたことで、剣が筋肉にがっちりと挟まってしまい、どうしようもなくなってしまう。

背中から異物を挿し込まれた剪裁する者は、近付いた俺を振り払うために、腕を横に振った。


その動きは、今まで戦った相手と比べれば大した速度ではなかった。

腕が動くと分かった時でも、身体が反応し腕振りの直撃を躱すことができた。


真正面から奴の力を受け止めなければ、決して対処できない相手ではない。




血を吐き、隙だらけのクロウモリが剪裁する者の追撃を受けないように、執拗に奴の近くで動き回った。


手頃な枝を拾って、突き刺そうと動きを大げさに見せる。

誰かが踏みつけたのか、枝の先は折れていて、さすがに肉を突き刺せるような形状にはなっていない。


奴は俺が持って振り回している物の判断ができていないようで、必死に枝を持つ俺を遠ざけようと腕を振り乱した。


奴が拳を空振りしても、振った先の何もかもが、目に見えない何かによって切り裂かれる。

だが、腕を振る方向さえ分かってしまえば、回避は難しくない。




何となく分かったことがある。

コイツは恐らく馬鹿だ。


俺以外が子どもに見える5人組とはいえ、魔人なら魔女の存在ぐらい知っていてもおかしくはない。

仮に魔女を知らなかったとしても、リリベルとオルラヤが魔法を使った時に警戒ぐらいするはずだ。普通なら警戒する。俺なら逃げ惑う。


だが、奴は猪突猛進を続けるだけだ。


避けられ続ける攻撃に、何の対策も打たず、ただ同じことを繰り返すだけなのだ。




剪裁する者が単純であると気付いたクロウモリは、オルラヤを片手で抱え上げる余裕を見せた。

彼の脚力なら、奴の攻撃を避けることは簡単だと彼自身が気付いたのだろう。


まるで弱い者苛めでもしているような気分になった。




剪裁する者は、声も上げず、悔しがる素振りも見せず、語りかけることもせず、荒々しい吐息を吐くことしか行わなかった。


そもそも痛みに対する感情も感じられない。




そうしてネリネを除いた4人で攻撃を与え続けた結果、奴は元の肌色も見えなくなる程に血で染まった。


耐久力と馬鹿力だけは、他に類を見ない程あるだろうが、それまでだ。




そして、遂に奴がその場から身動きするのをやめた時、俺たちは勝ったと思った。




奴が奴自身に素振りを行って、奴が縦に割れなければ、勝ったと思い続けられたであろうに。




真っ二つに裂けた身体は、裂けた断面から肉が隆起し始め、瞬く間に傷口を埋めていった。

埋めただけではない。


盛り上がった肉は、それぞれが腕となり足となり、五体を形成していったのだ。




剪裁する者は2人になった。

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