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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第22章 順不同の奇跡
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偶然の魔2

「抜けてるなぁ」


 リリベルは剪裁する者(スケイズマン)をそう評価するが、状況は危機的だ。


 枯れた森の中ではオルラヤの純白の衣装は目立ち過ぎるし、リリベルに関しては言わずもがなだ。


 隠れる木陰を失った俺たちは、すぐに奴に認識されてしまうことになる。

 認識した瞬間、獣のように姿勢を低くして素早く此方に寄りつこうとしていたので、クロウモリが牽制の意味を込めて、倒れている丸太を軽々と奴に放り投げた。


 奴は丸太を顔面で受け止めた。


 だが、動きは止まるどころか勢いを増した。


 鼻から血が垂れているところを見るに、人並みに傷は負うようだ。

 だが、傷を負っても、彼を止めるものは無かった。


 転び、転がり、動きを止めるまでの間に、触れる物全てが薙ぎ倒されていった。

 剪裁する(スケイズ)ではなく、薙ぎ倒す(モダウ)と呼んだ方が正しい気がする。




 ばったり出会った成り行きとはいえ、剪裁する者を止めない訳にはいかなかった。

 俺たちは迫り来る木々を掻い潜らなければならないのに対して、奴はただ真っ直ぐ進んで来るだけで良いのだ。


 クロウモリがオルラヤからできるだけ距離を離さないように前に出て、迎え討とうとした。


 対して俺は、いつの間にかネリネによって、鎧に着替えさせられていた。

 ネリネに教育をした甲斐もあって、彼女自身が鎧になった訳ではなく、彼女の想像によって魔力だ型取った鎧である。

 俺がかつて得意としていた具現化と何ら変わらないものであるが、彼女の意識から離れても形を保ち続けられるため、俺のものよりずっと良い。


 ただ、具現化して欲しい物の特徴を上手く伝えてやらないと、想像していた物と全く異なる物が出来上がってしまう。


 一番硬い物を想像してくれと言った時に、ネリネは硬いクッキーをすぐさま想像してしまったりする。

 クッキーの硬さの鎧は、鎧としての使い道はない。




 クロウモリより前に出た俺は、剪裁する者が弾いた丸太にぶつかり、兜ごと頭が砕けてしまった。




 すぐにその場に生まれ変わり、もう1度剪裁する者と対峙する。

 奴と接触する前に、鎧の定義についてネリネにもう1度話しておかなかればならない。


「ネリネ!! 鎧を滅茶苦茶重くしてくれ!」


 彼女に上手く伝わる硬さを表現することができなかった俺は、一縷(いちる)の望みに賭けて重さを変えるように言った。


 身体がどこかに吹き飛ばされてから死ねば、吹き飛ばされた場所で生き返ってしまう。

 せめてそうならないように、この場で生き返ってくれるように、彼女に願った。




 勿論、オルラヤとリリベルの手助けもあった。

 雷が剪裁する者の胴を貫き、氷の牢が奴をその場に閉じ込めた。

 肉が裂け、血が噴き上がり、氷漬けになった肌はすぐさま真っ青になる。


 それでも奴は止まらない。

 身体が痛みを表しても、その動きだけは止まらない。


 鎧の重さでその場から進むことも、座ることも叶わなくなった俺と奴がぶつかる。


 身体が吹き飛ぶことはなかったが、その場で五体が粉々に砕け散り、俺は素通りされる。


「ネリネ! 重さは忘れてくれ! 代わりに剣を!」

「えー」


 ネリネの行動が1歩遅れたことで、クロウモリへの援護が遅れた。

 そして、先にクロウモリと奴が相対した。

 クロウモリが大きく振りかぶって、奴と衝突する寸前でその拳を振り当てる。


 肉を打つ凄まじい音と共に、奴が吐血する。


 それだけだ。


 奴の突進はクロウモリの拳でも止まらなかった。

 あり得ない。

 鬼の馬鹿力をまともに食らって生きているのは、化け物だけだ。


「クロウモリ! 避けろ!!」


 避けろと言って避けるような性分でないことは分かっていた。

 むしろ、彼に避けろと言えばムキになって避けないと分かっていたのに、言ってしまった。


「避けません!」

「クロウモリ!」


 剪裁する者の突進をもろに腹から受けたクロウモリが心配だった。


 俺の心配も虚しく、クロウモリは剪裁する者の突進をまともに受け止めた。


 そして、吐血した。


 クロウモリが純粋な物理攻撃で吐血をする程の傷を負った。

 そして、剪裁する者の動きが少しだけ緩やかになった。


 クロウモリが敵わない力がここに存在する。

 巨体のファフタールよりも小さな大男は、馬鹿力で鬼を圧倒していた。


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