完璧な占い2
占いに水晶玉を使ったり、カードを使ったり、第三者の存在を呼び起こしてその者に代弁させたりというのはよくある話で、俺自身もその印象しかない。
占い師といえばの正当派な印象は、恐らくこの辺りが妥当な想像だろう。
クレマズメは占いの方法が、占いを行う都度で変化する。
まずこの時点で胡散臭い。
また、彼女の占いは即座に終わる。
普通の占い師なら、もっともったいぶって、あくまで厳かな雰囲気のもと、対象が占って欲しいことを占う。
占い師があまりにも張り切りすぎて、占われている者が欠伸をすることもあるくらいだ。
彼女は、踊ったり、奇声をあげたり、適当に拾った小石を何処かに投げたり、自分の髪の毛を1本抜いて風の吹く方へ泳がせたり、様々な手法を扱うが、そのどれもが欠伸どころかひと息をつかせる前に終わる。
故に楓衣の魔女は、本気で運勢を見定めたい者たちからの人気は、全くと言って良い程、ない。
金や権力を持つ者なら、真剣に運気を気にする特徴が顕著に表れると、冷静な分析を彼女自身が行えているというのに、それでも己の型を崩すことはない。
彼女が裕福にならないのはそれが原因だが、魔女をやっているような女だ。この先も貧乏を気にすることはないだろう。
ただ、クレマズメの最も胡散臭いと思える点は、他にある。
彼女の占いは、結果だけで言えば良く当たる。
いや、言葉が誤っている。
正しくは外れたことがない。
外れない占い程、胡散臭いものはない。
外れないということは、『当たるも不思議、当たらぬも不思議』という言葉を真っ向から否定する事象だ。
それは占いの常識から酷く外れた現象であり、あってはならないことだと思っている。
ただの予言なのだ。
「こらこら、魔物が活発になっているという噂を聞いて、私を1人置いて行くのかね。薄情な奴だ、親切にしてやっているというのに」
「残念だが、俺は魔物を倒せる程の力を持ち合わせていない」
「黄衣の魔女のお気に入りだというのに。嘘をつくと運気が下がるよ」
1人で放浪の旅を続けている魔女が、魔物に襲われて負けるとは到底思えない。
確かに、楓衣の魔女のことを知るリリベルもオルラヤも、彼女のことを強い魔女だと評することはなかった。
だが、それはあくまで彼女たちからの視点の話であって、ただの人間である俺からすれば、批評も変わるだろう。
だから、占いのこと以外でクレマズメの言うことは信じていない。
すっかり建て直されたオルラヤの屋敷に戻ると、丁度リリベルが戸を開けて出てきた。
最早、一心同体となった長杖を携えてやって来た。
「マントも杖も、全身が金運に満ち満ちている。相変わらずの色」
クレマズメの言う通り、リリベルと出会ってから金に困ったことはない。
慣れすぎて今まで考えてこなかったが、普通に彼女と暮らしていれば、確かに金持ちになっていただろう。
ただ、マントが黄色だから金持ちなのではなく、リリベルだから金持ちなのだとは思う。
「君も相変わらずこの季節に似合う色をしているね。ああ、私の騎士から話は聞いているよ」
「魔物の動きが活発化している件だね。残念ながら、魔物に関しての世界の運気の流れが悪くなっている。それ以外なら世界は平和だというのに」
「なら平和ではないだろう」
自然な流れで屋敷の外での井戸端会議が始まった。
クレマズメは魔女協会の意向を伝えに来たのが主な目的だ。
どうせ放浪しているのだから、言伝を行うにはうってつけという訳だ。
その楓衣の魔女が占いを行った結果を織り込んで、世界が不安定になりつつあるという。
当然、世界は魔女だけでできている訳ではない。
村として、国としてあらゆる生き物が、日常の変化に憂いを感じている。
「それで、私たちに何をして欲しいのかな?」
「今はまだ何も。ただ、危惧して注視しているだけ。まずは魔物たちがなぜ生まれたのかを知るべき段階だというのに」
「同じ魔力に密接に関わっている者同士なのだから、彼等に対する知識が深い魔女もいるのではないか?」
単純な疑問を投げかけてみたが、2人ともから明快な答えは返ってこなかった。
魔物の特徴を表す書物は多くあれど、その生まれが何であるかを語る書物はないとリリベルは言った。
「魔力を糧に生きる者たち。私たち、というより世界の誰もがその認識で魔物と接しているだけだよ。だから、君のなぜという問いに関して答えることは難しい」
ネリネが巻き起こした世界の僅かな変化を全て知り尽くすことが難しいと分かった今、向かうべき当てがない。
唯一あるとすれば、フィズレにある俺たちの家に帰ることぐらいだろう。
そのことを楓衣の魔女の前で語ったところ、彼女がいつの間にか終えていた占いの結果を俺たちに教えてきた。
家に帰ることが吉と出るか凶と出るかを占ってくれたようだ。
「東西南北どこへ向かおうと、2人には困難が待ち受けているだろうに」
良く当たる占いによって、俺たちの未来は閉ざされたような感覚だった。




