完璧な占い
魔物たちの動きが活発化し始めたという噂が出回り始めたのは、クロウモリとオルラヤの仲が大分深まってきた頃だった。
生い茂っていた森の葉は、どれも紅く色付いていた。
クロウモリの牙はすっかり抜け落ちていた、とは言えないが、少しは魔女に対する印象を変えてくれた。
リリベルやオルラヤに対して、素直に接してくれるぐらいの態度にはなっているので、進歩はかなりあった。
これまでの努力がようやく実を結んできた。
何度もオルラヤの家を抜け出ようとした彼を呼び戻すのは大変だった。
大抵は皆が寝静まりかえった頃に、忍んで外に出ようとするので、夜中は常にリリベルの魔力感知に働いてもらった。
その度にオルラヤを担いで、クロウモリに近付けて、彼女の記憶が抜け落ちないようにした。
実際に欠落してしまった記憶もあるのだろうが、俺も彼女自身も、何の記憶を失ったかは認識できない。
少なくとも生存に直結することや魔法に関しての記憶が失われた様子はない。
夜行性になってしまったリリベルを元に戻すのもひと苦労だった。
夜に慣れてしまった彼女は、夜に寝ようとしても頭が冴えてしまって眠れないと訴えていた。
彼女と寝床を共にしていて、何の気なしに寝返りを打って、目を見開き続けていた彼女と目が合った時は、悲鳴を上げたこともある。
それでも今は、彼女と共に眠ることができる状態にはなっている。
時間が解決してくれて本当に良かった。
「私の占いのおかげだろうに」
クレマズメが言った。
オルラヤの屋敷から少し離れた森の倒木に、俺と彼女は腰掛けていた。
「楓衣の魔女のおかげであることは確かだ。感謝している。だが、占いのおかげかと言われると、どうだろう」
「親切で助けてやったと言うのに、金を取るぞ」
「金は払ったじゃないか」
「追加料金という意味に決まっているだろうに」
楓衣の魔女と出会ったのは単なる偶然だ。
彼女は旅をする魔女で、基本的に気に入った地で根を張る魔女たちとは、少し毛色が異なる。
髪は茶髪で、あまり手入れはされておらず、艶が失われている。
顔も常に頬か額が泥か汗かで汚れていて、正直畏まった場に出る風貌ではない。
もっと正直に言ってしまえば、町で見かける浮浪者に見えてしまう。
背の高さや声の低さからして、俺と同じくらいの年齢だろうと推察できるが、本当は何歳なのかは不明だ。
特に知りたいと思う気分にもならない。
マントは赤や橙や茶が入り混じっていて、秋という季節にぴったりな色合いだ。
緋衣の魔女と違って、鮮やかな赤ではなく、くすんだ色合いで、派手な色と思いがちだが意外に目立ちにくい。
同系統の色のマントを羽織った魔女たちと、一応区別はできる。
彼女は魔女であり占い師である。
占い師という職業自体は珍しいものではない。
自身の未来を憂う者は、いつの時代も身分を問わず、存在するものだ。場所によっては国が占い師を召しかかえる例だってある。
彼女は転々と彷徨い続けて、占いを欲する者の未来を視る。
それが、彼女にとっての幸せなのだ。
ただし、俺は占いというものを信じてはいない。
それは、占いが当たる時もあれば、外れる時もあるからだ。
占われるという行為そのものが、安堵を生み出ることも知っている。
だが、外れる時もあるということを知ってからは、俺にとってクレマズメは、胡散臭い魔女という印象しか持てなくなってしまった。
それ程までに彼女の占いの手法は胡散臭いのだ。




