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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の杖9

 2代目のファフタールの名がアイワトラに決まった。

 生まれたばかりで知識のないはずのネリネが、その言葉をどこから拾ってきたのかはとても気になる点であった。


 そもそも言葉をどこで覚えたのか。

 なぜ赤ん坊だった彼女が、突然幾年も歳を重ねたのか。


 その疑問の源は、神の座を争っていた時が始まりだった。


 ネリネはその時には生まれて間もない状態で、自我もまともにない状況だった。

 だが、ただ1つだけネリネには強い感情が湧き上がっていた。


「怒っていた?」

「うん、音がいっぱいで、良く分からないけれど、怒った」


 あの時はリリベルや黒衣(こくえ)の魔女が、凄まじい魔法の応酬を重ねていた。

 五月蝿かったのだろう。

 音が音であると認識できなくなる程の音もあった。


 ()()()()()だったら、五月蝿いどころの話ではない。


 しかし、ただそれだけだ。


「怒っていたから、怒らなくなれば」

「五月蝿いものがなくなれば良いと願った……ただ、それだけで……」

「さすが私の娘。自分の思い通りになるように、周囲の魔力を全て奪い取ったのだね」


 リリベルは荒々しくネリネの頭を撫でながら言った。

 彼女の手の動きに合わせて、ネリネの頭がぐわんぐわんと動き、彼女の手から離れたネリネの髪は起きたばかりのように荒々しく跳ね上がった。


「願っただけで、そのようなことができる訳がない。幾らリリベルの才能を引き継いだからと言って、賢者の石と同じことができるなんて信じられない」

「君の才能も引き継いでいるよ」

「俺の……?」

「想像した通りの物を生み出せる力は、どう考えたって君の才能さ」

「それは俺の力ではない。具現化の力は呪いの副作用に依るものであって、決して俺が元々持ち合わせていた能力ではない。そんなものが引き継がれたなんて思えない」

「ふふん。呪いを持てること自体、才能だよ。常人では呪いを持つだけで魔力に当てられてしまう。でも、君は呪いを獲得した。具現化の力は、君が持って然るべき才能なんだよ」


 釈然としない。


 自分に合う杖を得たことで、気分が良くなって適当なことを言っているのではないかとさえ思えてしまう。


 ネリネの髪を手で梳かして元の形に戻してやる間に、ネリネに備わってしまったかもしれない力を眺めていた。

 彼女は無邪気に蛇と戯れていた。

 アイワトラは噛みつくでもなく、彼女の指の動きに合わせて身体をくねらせ、絡みついていた。


「他にはね。パパやママが話しているのを聞いて、悲しいって思ったこともあったよ」

「……ふむ。察するに、自分も言葉を話せるようになりたいと思ったのかな。突然赤子から成長したのは、そのためかな……ふむふむ」


 俺を置いてきぼりにしたまま、リリベルはネリネの突然の成長について、結論付けてしまった。


 ネリネがアイワトラの腹を撫でると、2つの首は力が抜けてだらりと手から零れ落ちそうになった。

 凶暴で危険な蛇の面影はそこになく、これまでの魔物に対するイメージが呆気なく崩されてしまった。


「私と君の子は生まれた時から、想像した通りのことを実現できるようだね」

「……これは、魔法なのか? それとも呪いの類なのか?」

「呪いではない。呪われた者特有の魔力の変質や、通常では見られない魔力の巡り方が感じられないからね」


 リリベルの金色の瞳は、楽しそうに微笑んでいた。

 幸いと言うべきか、彼女はネリネに興味を持ってくれた。恐らくネリネが異質であればある程、彼女はより強く興味を持ってくれるだろう。

 未知の領域に足を踏み入れる感覚は、彼女にとって何よりも喜ばしい感覚になるのだろう。


 これで少しは母親らしい接し方に近付くのではないかと思うと、俺も嬉しい。


「だけれど、魔法かと問われると答えることもできない。何せ、()()()()()()()()、この子が使うものを魔法とは呼べないから」

「つまり、分からないってことか」

「まあまあ。でも、きっと魔法なのだろうね。私の知らない、新しい時代の魔法。私と君が死ぬ頃には、これが当たり前になっている。そういうものだと思うよ」


 互いに人生の半分も歩んでいないというのに、既に時代遅れだと彼女は言い切ってしまった。


「魔女の時代変わりはやけに早いのだな」

黒衣(こくえ)の魔女に対抗できるように、私たちは効率的に生まれて力を増幅させていった。魔法の進歩の早さも、当然早くなるはずだよ」

「この歳で、『あの頃は良かった』なんて言いたくはないな」

「君が望むなら『あの頃は良かった』なんて、言う暇もないくらいのことを起こしてみせるよ?」

「それは勘弁してくれ……」


 リリベルがふふんと鼻を鳴らして、満足そうな表情を見せた後、散歩を終わりにして俺たちはオルラヤの屋敷へ戻った。

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