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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の杖7

 慌ててオルラヤをリリベルから引き離して、リリベルに聴取を取ったところ、彼女はこう述べた。


「役に入り込みすぎて、オルラヤ君のことを忘れてしまっていた」


 意味不明である。


 もう少し手当てが遅れていたら、オルラヤが死んでしまったことを考えると、彼女を諌めるべきなのだろう。

 だが、オルラヤが暴走しないように足止めしてくれたことを加味すると、彼女の頭を撫でざるを得なかった。


 これは非常に厳しい対処だ。




 その後にオルラヤの従者たちをなだめるのは大変だった。

 率先して彼女を治療していなければ、今頃クロウモリを含めて全員が復讐の対象にされていたに違いない。


 彼女たちが正気に戻ったのは、オルラヤが再び目を覚ましてからのことだった。


 ファフタールの魔力を失って、生命維持ができなくなったオルラヤに、代わりの生命維持の核となったのはリリベルだった。

 彼女は、オルラヤに『魔女の呪い』をかけた。


 リリベルの魔力を分け与え、オルラヤがこの先も生きていけるだけの生命力を維持できる状態になったとリリベルは言った。


 そして、呪いであるからには当然、代償がある。

 リリベルの優しさがあれば、代償などどうにもできてしまえると信じていたが、残念ながら俺の望み通りにはいかなかった。


 オルラヤはクロウモリと離れ離れになってはならない。

 もし、離れ離れになってしまえば、オルラヤから記憶が抜け落ちてしまう。


 俺が知っていた2人の呪いの代償に比べたら、今の呪いは遥かに良心的ではあるが、それでも(たち)が悪い。

 その理由が、抜け落ちる記憶に際限がないからだ。


 楽しかった辛かったなどの単なる思い出だけではなく、魔法の使い方や歩き方、無意識に行われる呼吸の仕方さえ記憶から掻き消されてしまう。


 離れ離れにならなければ、何も起きることはない。考えは単純だが、今は状況が違う。

 今のクロウモリは、オルラヤに対して何ら好意を抱いていない。

 むしろ、彼女の印象を地に落とす、魔女という身分が彼に何の罪悪感を浮かばせない。

 クロウモリは平気でオルラヤを切り捨てるだろう。




「呪いの代償がすぐに分かっただけでも、幸せなことさ。呪いというものは、決して幸せにならないから呪いなのだよ」


 リリベルはあっけらかんと言い放った。


 リリベルのおかげでオルラヤが生き長らえることができる結果に繋がったことは、悪くはないことなのだが、それでも丸くは収まらない。




 だから、後は俺がどうにかしようと思った。


 リリベルにできることと俺にできることは、分かれている。

 リリベルにここまでお膳立てをしてもらったなら、後は俺がオルラヤとクロウモリを元の鞘に納めてやれば良い。




 まず、2人に話をしもらった。

 2人がここに至るまでに、どれ程の困難や苦悩があったのか。


 ファフタールの意志が介在しないオルラヤの素直な言葉を聞いたクロウモリが、彼女が魔女であることを差し引いても良く思ってもらえるように、俺は必死に言葉を紡いだ。


 まるでお見合いのようだった。




 当然、オルラヤに対する彼の心が1日で変化する訳はなかったので、俺たちは何日もそこに居続け、あの手この手で彼を引き留め続けた。


 ただひたすらに彼の良心に訴えかけた。

 オルラヤに対する接し方が、魔女でない者との接し方に至るまで、半月を要した。


 それでも、黄金の盾も、黄金の杖も、町の黄金の採掘場も、そこに存在し続けた。




 その理由が分かったのは、更に半月程経過した時だった。


 ネリネがファフタールの頭に乗って、失われた森で遊んでいる場面を偶然見てしまった。

 夢かと思った。

 何かの見間違いだと思った。


 散歩がてらにネリネと更地で遊んでいた。

 娘の無尽蔵の体力に負けて昼寝をしてしまい、それでも彼女の声は聞こえていたから、どこか遠くへ行ってしまったとは思わなかった。

 だから、起きても焦らずに、持ってきていた水筒を飲んだ。

 それで口に水を含みながら何の気なしに声がする方を見てみたら、巨大な蛇がいたのだから、当然口の中のものは吹き出さざるを得なかった。


 それは巨大ではあったが、森を破壊したファフタールとは全く大きさは異なっていた。

 そう。採掘場で見た、卵から孵ったばかりの蛇と同じぐらいの大きさだったのだ。


 そこで確信した。

 倒したファフタールと黄金の卵から孵ったファフタールは、別の個体であったと。


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