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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の氷7

「魔物は呼び寄せる。暴走して見境なく攻撃する。殺すべきです」

「そう簡単に誰彼を殺すべきではない」


クロウモリは両の手の指を地面に食い込ませて、思い切り両手を振り上げる。

それだけで土の塊が草木ごと綺麗にめくり上がった。

大砲の弾丸が発射されるが如き速さで、氷の草木をなぎ倒していき、巨大な華へ直進して行く。


氷の草木は割れても氷の華が割れることはなかった。


「酷い頭痛……気持ち悪ぅ」


ただでさえ純白の衣装に身を包み白いというのに、今の彼女はより一層白かった。


身体中に霜が張り、吐息をつく度に周囲の物が凍りつき、細かい物は砕けて塵となる。

粉雪が舞い落ちているようだった。


華の上から飛び降りると、ひらりと衣服が舞う。音はない。


上品に小足でゆっくりと此方に歩み寄って行くと、呼応するようにクロウモリも彼女の方へ近付いて行った。




嫌な予感だ。

ひたすら嫌な予感がする。


「クロウモリ! 待て!」


今更彼が言葉で止まるような状況ではないと分かってはいた。それでも止まってくれることを祈らざるを得なかった。


後に残された手段は、力ずくだ。


クロウモリが腕を大げさに上げて構える。


オルラヤが広い袖口を払って手を前に突き出す。




オルラヤのまつ毛は霜で更に強調されていた。


そんな彼女が前に突き出した掌を握ると、周辺に散らばっていた氷が一気にクロウモリに向かって飛来を始めた。

大小様々な氷が四方八方から1点を目掛けて飛ぶのだから、その間にいた俺の身体はズタズタだ。


それでも彼の背中は守ることができて満足だ。


クロウモリは力一杯の足踏みをその場で行った。その衝撃で地面が割れて、地上から飛び出る。

横からの氷はそれで防がれた。


上から降り注いで来る氷は俺が具現化を使って屋根を作り出したおかげで、彼が穴だらけになることはなかった。




穴だらけになったまま死に、次の生で走って2人の間に割って入った。


「クロウモリ! オルラヤ!」


クロウモリは地上に飛び出た地面を鷲掴み、俺の方へぶん投げる。邪魔だからどけと言わんばかりの暴挙だが、とりあえずの防御も形無しで、呆気なく俺は土の塊に組み伏せられた。


死んだかと思ったが、上手い具合に塊と塊の間に身体が埋まっていて、圧死からは免れていた。


身じろぎして必死に土を掻き分けて地上に出ると、長い長い氷柱が幾つも突き刺さっているのが見えた。そこで初めて彼が俺を助けてくれたのだと気付かされた。

暴挙は言い過ぎだった。




「大人しくしていてください!」

「彼女を殺させる訳にはいかない!」


彼にとって俺の言葉は、魔女であるオルラヤの肩を持つように聞こえたことだろう。

彼は怒った。怒りがそのまま拳に乗って、地割れを引き起こす。


せっかく地上に出たのに、また土中に埋葬されてしまう。

必死に手足を掻き、流砂の如く地中へ流れ込もうとする土砂から逃れようとする。




その土砂の流れをオルラヤの氷が止めた。

優雅に跳ねてふわりと地面に降り立った彼女の周囲は、一気に氷の華が咲き乱れる。


目の前までやって来た彼女の表情は凍りついたかのように、筋肉1つ変わらない。まるで人形のようだ。


知らずうちに、上下の歯がカチカチと勝手に音を鳴らし始めた。


「怪我をしてますね。めちゃ可哀想です。今すぐ治してあげます」


純白の魔女から吹き出す氷は、到底人を助けるような物量ではなかった。


嫌な予感のおかげでできた寝返りで、左腕だけはそこに残して氷の波を避けることができた。

左半身が身軽になったから、そのうちに出血が酷くて死ぬだろう。


傷口を見ないまま、2人の様子を窺っていたら、今度はクロウモリが行動を起こしていた。




鬼の脚力で、瞬間移動とほぼ変わらない速度でオルラヤの前まで距離を詰めた彼は、そのままの勢いで彼女を殴りつけた。


オルラヤの胸に穴が開いてしまった。


「オルラヤ!!」

「いったああぁぁい!!」


右の拳で胸を貫いたクロウモリが一瞬で真っ白になる。

右腕でもう1度彼女を殴りつけようとしたのか、思い切り右腕を振り抜いた彼の肩から先は千切れてしまう。

オルラヤは胸にクロウモリの腕が突き刺さったまま、胸を掻き毟り始める。


「気持ち悪すぎる。全力で殴って、普通なら死んでいる状況になっているはずなのに、声を上げて痛みを訴えてくるなんて……。化け物」


右腕を失っても悪態を吐くクロウモリを見て、彼の傷口から出血がないことを知る。

そこで不意に自身の左腕を確認する。


出血をしていない。




クロウモリは左腕を一瞥してから、少しだけ屈んだ。残りの左腕まで失ったらこの先の人生が不便になると思ったのか、左足を犠牲にする準備を始めたようだ。


彼の蹴りに間に合わせるために、考える暇もなく彼の前に身を投げ出した。


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