金の氷6
ファフタールに悟られたことを悟った。
魔力を盗んだオルラヤの断罪よりも、リリベルという極上の餌を求めることを優先させたいという意思が見え隠れしている。
オルラヤを暴走させたことも意図的で、アンフィスバエナたちがここにいるのも意図的だ。
奴等はその長い胴体を引き摺らせながら、俺たちを攻撃できる位置にまでにじり寄って来た。
まるで誰かに号令を受けたかのように、距離は均等に詰められていく。
「物珍しい大蛇よ」
チヤとロクシミが、アンフィスバエナに対して戦闘体勢を整えていることに驚いた。
てっきり彼女たちもファフタールの操り人形なのではないかと思っていたからだ。
クロウモリはこれから戦いが起きることを想定して、ネリネを大事に扱いながら俺たちのもとへ置いた。
「リリベルはネリネを見ていてくれ」
「この子を守る必要はないと思うけれど、君がそう言うなら」
リリベルはやたらとネリネを評価しているが、ネリネはまだ子どもだ。無謀なことはさせられない。
中心にネリネとリリベルを据えて、俺を含む4人がその周囲を守った。
アンフィスバエナたちは、俺たちの戦いへの準備が終わるのを待ってくれていた。
本当は、ただ機を窺っていただけだと思う。
そして誰が合図した訳でもなく、一斉に2頭の蛇が入り組んだ木々をすり抜けて、襲い掛かってきた。
建物の外に出てから、頭は快調だ。
具現化に支障はない。
具現化さえできてしまえばこっちのものだ。
剣を想像して生み出した出来の悪い曲刀も、使い方次第で十分武器になる。
歪んだ刀身のどの辺りで切れば効果的かは、実際に切ってみないと分からないので、確かめる分の手間はあるが、魔力のことしか頭にない魔物相手ならどうにかなる気はしている。
噛みつかれる前に身体を捻って、そのついでに首を1つ落とす。
戦いに意識を強く向けると今度は剣の形が変化してしまう。その度に刀身のどの辺りで切れば良いのかを考え直さなければならないことは、不便なことこの上ない。
いずれ慣れると思うしかないのかもしれない。
それでも戦いの最中によそ見をするぐらいの余裕はあった。
蛇たちの攻撃は単調だからだ。
首を折り曲げて、伸ばす時の勢いで噛みつこうとするか、毒の息を吐くぐらいしか攻撃手段がない。
噛みついてきたアンフィスバエナには剣で迎え入れ、毒を吐こうとする奴には吐く前に切るだけだ。
もっとも毒の息を吐こうとする奴等は、俺が対処するよりも先にリリベルやロクシミたちの魔法で消し炭にされてしまう。
とりあえずは噛みつきにやって来る奴等を対処すれば、それで問題はなかった。
同じ近接攻撃を主体とするクロウモリの方は、俺とは比べ物にもならない程の強さだ。
ただの殴りは、直撃しなかったとしてもアンフィスバエナたちを吹き飛ばし肉を抉る。
直撃した蛇たちは漏れなく即死し、弾けた肉片や骨は、爆弾が炸裂した時のような速さで周辺にいる他のアンフィスバエナたちにめり込んでいく。
拳ひと振りで何匹もの蛇が倒れていく様は、恐ろしくもあり頼もしくもある。
彼の近くには、万全の装備なしでは寄ることはできない。
しかし、この場のあらゆる出来事の中で最も気を付けていなければならないことは、オルラヤの動向だった。
建物を中心に広がっていく氷の範囲が徐々に広がっている。
触手かあるいは植物の蔓のように、無数の氷柱が縦横無尽に伸びていく。
ゆっくりと時間をかけて長さを蓄えていく訳ではなく、目で見て分かる程に伸びている。
そしてアンフィスバエナたちとは違って、それ等は何の予備動作もなしに、突然此方を突き刺そうと伸び切って来る。
リリベルの雷があるおかげで、死なずに済んでいる状態だ。
だが、俺たちが反抗を重ねれば重ねる程、オルラヤの氷の勢いは、更に増しているような気がした。
「キリがないです!」
「とにかくアンフィスバエナを蹴散らして、もっと建物から離れよう!」
幸い、アンフィスバエナたちの数はすぐにまばらになってくれた。
これ以上の奴等からの増援はない。
蛇を倒しながら前に進んで行けば、オルラヤの氷から逃れることは難しくない。
そう思っていた。




