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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の氷4

 床から表出し続ける氷に部屋の壁が、あっという間に突き破られてしまった。

 リリベルは横に押したし、ネリネはクロウモリが咄嗟に抱えて回避してくれた。

 白衣の魔女としての実力を考えれば、俺だけが攻撃を受けて済んだことは運の良いことだ。


 隣の部屋に吹き飛ばされてから、即座に身を翻して、廊下へ出る扉へ向かう。

 しかし、間に合わない。

 カビが蔓延るように、氷が壁を伝ってやって来た。戸を飲み込み、戸と俺の間に1枚の氷の壁が張り付くことになる。


 試しに氷の壁を蹴ってみるが、その時には既に氷の壁の厚さは、人間が簡単に蹴破ることができない程に成長してしまっていた。


 他の逃げ道は窓を突き破って外に出るくらいだが、窓も戸と同じように氷漬けにされている。


 後は臨戦態勢に入るしかない。


 まさかオルラヤと戦うことになろうとは思いもしなかった。




 まずは氷が張られた床をどうにかしたかった。

 これ程の冷気で身体が氷に触れればどうなるかは明白だからだ。


 とにかく氷を覆えるようなものを、床に具現化してみた。

 しかし、上手くいかない。花の香りのせいか昨夜と同じように、頭がぐらついたままで、具現化のための想像も覚束ない。




 これではオルラヤに近付こうにも近付けない。

 氷に触れた瞬間に身体が侵食されて氷漬けになるのだけは御免だ。


 オルラヤを気絶でもさせれば、氷の魔法は解かれるはずだが、氷のせいで彼女との距離が近いようで遠い。




 机を横に倒して天板を建て代わりにしてみるが、あっという間に机は氷漬けになる。

 それを無理矢理蹴って動かそうとしてみると、小気味良い音と共に机がバラバラに砕かれてしまった。




 呼吸を行うと胸が痛い。肺が氷になってしまう。

 目は刺すように痛み、開けていられない。

 手足の指先の感覚はなく、痛みすら感じられない。




 破れかぶれの炎魔法の詠唱は、中途半端にではあるが成功した。

 しかし、あまりにも頼りない火球は掌から放たれてすぐに、周囲の冷気に当てられて消滅してしまった。




 他に打つ手がない。


 魔法やその類のものが使えなくなれば、俺はただの死なない人間である。




 そんな膠着しかけた状況を打破してくれたのはクロウモリであった。


 彼は分厚い氷を壁ごと難なく破壊した。

 壁に穴が開くと、そこから空気が流れ込んで来て肺が暖まる。


 外は汗をかくこともない至って平凡な温度だろうが、オルラヤの冷気に曝された部屋が寒すぎて、その温度を暑すぎると感じてしまうくらいには、身体の感覚は麻痺しきっていた。




 氷を拳と脚で薙ぎ倒し、割り、破壊していくクロウモリに、あっという間に壊れた壁から部屋の外へ救出された。




「この抱え方はさすがに……」

「我慢してください」


 廊下を破壊しながら飛ぶように走る彼はあっという間に、出入り口戸の前まで移動してしまった。


 とにかく、出入り口で待っていたリリベルたちと何とか合流できた。


 ネリネが、クロウモリにお姫様抱っこで抱えられている俺を見て、親指を立てて「良いね」と言う。

 何が良いのか。

 リリベルはいつも通り羨ましがっていた。




「旅のお方の荷物は残されたままでしょう。お嬢様がお気を静められるまで、お待ちいただけぬか」

「そもそも、なぜ急にご乱心とやらになったんだ……」


 チヤが戸を開けて俺たちを屋敷から離れるように誘導しながら言った。


「お嬢様は生まれてから臓器が弱く、家から出ることもままなりませんでした」


「何とかお嬢様をお救いしたいと思い、一計を案じた末に、魔力でお嬢様の命を補う手法に辿り着きました」


「しかし、我々小間の使いの魔力だけでは、お嬢様が十分な人の世を生きることは叶いませんで、代わりにファフタールという魔物の魔力を盗み生きておられるのです」


 魔物は魔力を求めて生きる者たちだ。

 彼等にとって、宝にも等しい魔力を奪う真似をして、なぜ逆襲を受けないのか。


「我々も幾らか魔法の知識があります故」


 つまり、彼女たちも魔女なのだな。


 彼女たちはファフタールに気付かれないように結界魔法を張り巡らせ、オルラヤの存在を匂いごと打ち消していると言った。

 ファフタールはそんなに鼻が利くのか。見た目は概ね蛇の癖に犬のようだ。


「しかし、所詮は魔物。かの魔力を得て全てが利するものとはなり得ませぬのです」




 まだチヤの説明の途中であったが、建物の天井が盛大に弾ける音がした。

 中から氷が溢れ出てきた。




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