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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の氷3

 隣りにいたリリベルが指先で腕をなぞり始めた。

 オルラヤとの会話を聞く気がないのか、聞いていても手持ち無沙汰で遊んでいるのか。


 しかし、なぞり方が一定の感覚で同じように繰り返されていることに気付いてからは、それが意味のある行為だと察した。

 これは、文字を書いている。




「折角なので私からも質問したいです。なぜ黄衣(おうえ)の魔女さんが私の家に来たのでしょう?」

「偶然だよ」

「奇遇ですね」




 一旦、意識をオルラヤの方ではなくリリベルに向ける。




「黒いマントを羽織った魔女を知りませんか?」

「いきなりな質問ですね……知ーりませんけれど」

「ヒューゴさん、僕はここに用はないみたいなのですぐに出て行きます」

「ま、待て待て! もう少し彼女と話してみてくれないか」


 クロウモリは大層嫌そうな表情をしていた。

 それでも無理矢理話してもらわないと困る。

 リリベルの意思を読み取る時間稼ぎもあるが、会話を行えば多少は2人が仲良くなるのではないかという狙いもある。


「えーと、なぜ貴方は魔女をやっているのですか?」

「魔女になった理由ですか。恥ずかしいですね」




 恥ずかしいと言いつつオルラヤは、すぐに魔女になった理由を語り始めた。

 そこは魔女らしく、野望を語ることに躊躇はないようだ。

 2人の馴れ初め話を以前に聞いたように、彼女は恋をするために魔法を研究していると語り始めた。


 その話を聞いたクロウモリは、最初こそオルラヤの言うことを信じる気などなかったようだが、彼女が恋について熱く語る様子を見ていくに連れて、徐々に態度を軟化させていった。

 実際はただ圧倒されているだけのようだが。


「惚れ薬は嫌いですが、作らなかった訳ではありませんよ。これは、ただの惚れ薬では風情がありません。ただ相手を好きになるだけではなく、運命的な出来事を少しでも多く体験できるように、感受性を豊かにする効果もあるのです。しかし、それだけではまだ面白くありませんので、もっと心がきゅんきゅんするように仕掛けを施して……」


 衝立に映る影が激しく揺らいでいて、オルラヤの興奮をより強く印象付けさせた。

 自身の好きなものを語らせた時の早口具合は、リリベルと似通うところがある。




 おかげでリリベルの指文字を解読することができた。


『白衣の魔女と鬼は、呪いが育まれる前の状態にある』


 ははは。


 まるで時間が巻き戻ったかのような言い方だな。




 進む時間の速度を操る魔女はいれど、時間を巻き戻せる魔女は今までに出会ったことがない。

 リリベルがダリアを救いたくて調べに調べた研究の成果の1つがそれだ。


 もし、そのような大それた力を持つ者が存在すれば、魔女界隈どころではなく、あらゆる種族の間で噂されることだろう。

 魔女だったら歪んだ円卓の魔女の1人になっていること間違いなしだ。

 故に2人の時間が巻き戻っていることは、恐らくあり得ないことなのだ。




 いいや。

 考えを改めてみよう。




 作り直した世界は今のところ、俺が知っている作り変える前の世界とは異なり続けている。

 滅んだはずのポートラスは今も国として生きているが、山の上にはなく黄金の町として栄えている。


 オルラヤの家がポートラス近くにあったことは初耳であったし、何より2人が俺が知っている状況以前の状態に巻き戻っている。


 作り変えた世界に再び足を踏み入れることができたと思ったら、赤ん坊だったはずのネリネが自らの足で歩き、喋り、魔法を唱えている。


 俺が知る世界の知識は、今の世界では何1つ役に立たない。

 俺とリリベルで知識と想像の限りを駆使して、作り直したはずの世界は、ある意味では不完全だった。

 それぞれの可能性と時間が捩じ曲がっている。




 そこから考えだした予想は2つだ。


 時間の捩じりや巻き戻しを引き起こす程の者は、今この世に存在していないのかもしれないが、少し前に存在していた可能性はあった。


 つまり、オルラヤとクロウモリの時間が巻き戻った原因は、俺にあるのではないか。




 あの時のリリベルは全知であった。魔力制御は完全なものではなくなったが、能力が落ちた訳ではない。

 代わりに頭脳で魔力を練るという離れ業をいとも簡単にやってのけたのだ。


 だから、原因があるとすれば、不完全な具現化を行う俺しかいない。


 もう1つは黒衣の魔女が、何らかの理由でもってこの世界に干渉した可能性があるが、それは最早確かめようがない。




『好きにしてご覧よ』




 指文字が変わったことにすぐに気付き、そして言葉の意味もすぐに気付けた。




 しかし残念なことに、彼女が背中を押してくれるありがたみを噛みしめる前に、事態が変わってしまった。


 部屋に寒気が覆い、壁や床が軋みを鳴らしながら凍りつき始めた。

 自然と口から白い吐息が漏れ始め、環境に合わない衣服のために鳥肌が立つ。


 チヤとロクシミが衝立の向こう側に行き、オルラヤを必死に宥め始めたが、2人はすぐに説得を諦め、俺たちに部屋から出るように促した。


「お嬢様がご乱心召されてしまわれた」


 無数の氷の棘が衝立を突き破り、此方に向かって突き進んで来た。


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