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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の氷2

 部屋に着くなり机の上に多種多様な料理を振る舞われた。

 どれも見たことのない料理であった。味は少々塩気が強いが、美味しかった。


 食事の最中にチヤが出入り口の戸付近で座ったまま語りかけてきた。


「お食事が済みましたらお約束どおり、お嬢様とごゆっくりと計らいごとを語られると良いでしょう」

「計らいごとなどありませんが……」


 何か勘違いされている気がするが、老婆は信じていないのか返事もなく、ゆっくりと戸を閉めて部屋を後にした。


「クロウモリ。是非、お前にも彼女と会って欲しい」

「ヒューゴさん。なぜ、僕がそのオルラヤさんと話をしなければならないのでしょうか」

「それは……。ああ、いや、オルラヤも魔女だから、もしかしたら黒衣(こくえ)の魔女の情報が得られる可能性がある。お前が彼女と話をしておいて、損なことはないと思ってな」

「念の為言っておきますけれど、僕はそのオルラヤという魔女のことは何も知りませんし、覚えていません」


 そうは言っても、もしもということがある。

 彼をオルラヤと話をさせれば、思い出すことがあるかもしれない。

 もし思い出せなくとも、あれだけ相性の良い2人なのだから、きっとすぐに打ち解けるだろう。


 魔女そのものに強い憎しみを抱いているクロウモリが、まかり間違ってオルラヤと敵対することがないように、せめて2人がある程度仲良くなれるまで間を取り持ちたかった。


 彼を話し合いに参加させたかったのは、それが理由だ。


「それと、黒衣の魔女の情報が聞き出せないのなら、すぐにここを出ます。魔女が住む家に長居なんてしたくはありません」


 彼をここに留まらせておくことは、物理的にも心理的にも難しい。

 2人が元の間柄に戻る機会は、かなり少ないだろう。

 慎重に素早くことを進めなければならないという条件が付け加えられたことは、重圧になった。


「君は本当にお人好しだね」

「私もそう思う」


 娘と妻がピシャリと冷たい言葉を投げかけてきた。魔女らしいあしらい方だ。




 朝食が済むと、早速チヤに案内されてオルラヤの居室まで向かった。


「万が一の備えとして、我々も同席しますれば」

「問題ない」


 俺の許可を得て、チヤは戸を開け、部屋の中へ先に進む。

 彼女の後に続く形で、4人全員で部屋に入ると、4つのクッションが用意されていた。そこに俺たちは座った。


 眼の前には1枚の大きな衝立(ついたて)があり、部屋の向こう側の景色を遮っていた。

 向こう側に人の気配があった。オルラヤだろう。


 チヤとロクシミが入り、衝立の両脇に正座で座す。


 座ってそれぞれが落ち着いたところで、香りが漂い始めた。

 香りの源がどこから流れているのかは分からないが、良い花の香りであることは確かだった。

 しかし、その匂いが強くなると、妙に妙に身体がくらつき始めた。心なしか手足に力が入りにくい気もした。

 昨夜の状況に似ているとも言えるだろう。




「さて、皆さんが私に聞きたいこととは何でしょう?」


 窓から差し込む光の加減のおかげか、衝立の向こう側にいるオルラヤの姿が影となって衝立に薄っすらと浮かんでいる。

 声は確かに彼女のものだが、衝立に浮かび上がっている影はとても人の形をしてはいなかった。


 何本かの触手のようなものが揺り動いているし、身体が盛り上がったり凹んだり、奇妙な蠢きが見られた。


 衝立の向こうの様子を見たくて仕方がなかったが、2人の見張りと花の香りがその気を削がせた。


「まず聞きたいことは、ファフタールのことについてだ。黄金の置き物が廊下に置いてあったが、ファフタールとどういう関係なのだ?」

「そんなことを聞いてどうするつもりかは謎々ですが、平たく言えばあの魔物の魔力がなければ、私は生きていけないのです」


 ではなぜ、魔力がなければ生きていくことができないのか。

 それが彼女の口から語られることはなかった。

 まだ俺たちが腹を割って話し合える仲ではないからか、彼女にそれ以上の言葉を続ける気はないと言われてしまった。


 最初からファフタールと関わり合いを持ちたくなかった俺は、特に追及する気はなかった。


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