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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の盾4

「クロウモリじゃないか!」


 駆け足で彼に寄り、肩を掴んで喜びを伝えるが、どうも彼の様子がおかしい。

 おどおどしているような気がする。


「そういえばオルラヤはどうした? 彼女と離れ離れになったら大変じゃないか。今、彼女はどこに?」


 彼は言葉を離せない。

 魔女の呪いによって彼は、意思の疎通を図るために紙と筆記具が肌身離せなくなってしまった。


 今回も彼はすぐに紙に文字を素早く書き綴るはずだ。


「ええと、すみません。どこかでお会いしたことありましたか? それに、オルラヤとは誰でしょうか?」

「は?」


 何か冗談でも言っているのかと思った。


「一心同体で生きてきた彼女がいるだろう」

「一心同体? 僕はずっと1人で旅をしていましたが……?」

「おいおい、悪ふざけはよせ」

「悪ふざけなんかではないですよ。誰か別の方と勘違いをしているのではないですか?」


 彼は至って真面目な表情で、迷いなくオルラヤを知らないと言ってのけた。


 彼は俺を訝しげに見ていた。

 俺のこともオルラヤのことも知らず、しかも備え付けられた口で言葉を話せる彼を目の当たりにして、頭が真っ白になる。


 一瞬、良く似た別の誰かという可能性も考えた。


 だから、彼が俺の知るクロウモリであるという最後の特徴を確かめるために、彼が被る帽子を取ろうとした。

 帽子の中に赤い1本角があれば、それは彼に間違いない。




「おや、君は白衣(はくえ)の魔女のところの……」




 リリベルが近付き、彼女もまた見知ったクロウモリに話しかけたその瞬間だった。


「魔女……」


 クロウモリが突如俺の手を雑に振り払い、帽子を脱ぎ捨てランタンを落とす。

 頭には彼の最たる特徴である赤い1本角が光り輝いていた。


「クロウモリ?」

「教えてください。貴方は病を振り撒き、僕の家族を殺した魔女の居場所を」

「落ち着け。まず、病を振り撒く魔女は、黒衣(こくえ)の魔女のことだろう。彼女は黄衣(おうえ)の魔女――」

「魔女は皆同じだ!!」


 彼にとっては軽く突き飛ばした程度の動作なのだろうが、俺にとっては馬鹿力で吹き飛ばされたことに等しい。

 身体が真っ直ぐ吹き飛んでいき、どこかの木に衝突して、意識を失いかける。


 赤い怒りの光が、リリベルまで一気に距離を詰めて、彼女の首を絞め上げる。


 彼女の危機を見て、背中から木に当たって、呼吸を忘れさせられたことも忘れる。

 どうにか走る体勢を作って、クロウモリの手を掴み、彼に落ち着くよう説こうとした。


「待て待て待て!! 本当に俺たちのことを知らないのか!?」

「さも知り合いかのように話しかけて、油断させようという魂胆が見え見えだ! 魔女らしい!」




 彼が記憶を失っている可能性を考えた。

 しかし、彼は黒衣の魔女のことを覚えていて、黒衣の魔女に対する憎しみに起因して魔女全てを嫌っている節が見えるから、その可能性はすぐに消えた。


 魔女の呪いがなく、普通に話すことができる。

 俺達のことを知らず、オルラヤのことも知らない。

 しなし、黒衣の魔女を覚えている。


 そこから導き出せる予想は、恐らく1つしかない。


 今のクロウモリは、俺たちやオルラヤと出会う前の状態になってしまっている。




「まずは話を聞いてくれ!!」




 俺程度の腕力で彼を押さえつけることはできない。

 むしろ、彼の怒りが腹に炸裂した結果、そこにあった肉体が全て体外へ弾き飛ばされてしまう。


 それでも俺はクロウモリの手を掴み続けたのだから、良くやっている方だとは思う。


「やっぱり魔女と関わっている人間は碌でもないじゃないか」

「黒衣の魔女のことが……知りたいなら……教えるから、彼女を離してやってくれ……」


 リリベルもリリベルで一切の抵抗をせず、されるがままに殺されかけていた。

 このままではリリベルが死んでしまう。


 クロウモリを攻撃したくはなかったが、いよいよ彼に攻撃をしなければならない状況に陥る。全力で思考を巡らせたが良い案は浮かばなかった。




「パパ、ママ。何してるの?」

「ネリネ! 下がっていろ!」


 何時のまにかネリネが俺とクロウモリの横に立っていて、不思議そうな表情で質問をしてきていた。

 リリベル以上に死が重い彼女を、死が近い場所に近付けさせる訳にはいかない。


 必死で叫んだ。


 しかし、彼女は俺の心配をよそに、気軽にクロウモリに触れようとしていた。


「ネリネ!!」

「力比べ? それなら、えいっ!!」


 クロウモリの怒りがネリネに向けられそうだと分かり、遂にクロウモリを殺す決心をして具現化を行おうとしたその時に、クロウモリが地面に埋まった。


 ネリネが指1本でクロウモリの横腹を突いたその瞬間だった。


 ただ、それだけでクロウモリの手からリリベルが離れて、彼は首だけを地面から出すような形で埋まった。

 それだけではない。

 腹に開けられた穴がいつの間にか綺麗さっぱり塞がっていた。


 俺もクロウモリも何が起きたか分からず、暫く無言で状況を確認していた。




「お腹減った」


 咳き込むリリベルを介抱しつつ、ネリネに尋ねた。

 この場でクロウモリと俺に何かをできたのは彼女しかいなかったからだ。


「私の方が力が強い! 後、パパのお腹が開いて風邪を引きそうだったから治したの」


 彼女は細腕を掲げて余りに小さな力こぶを作って見せた。

 彼女の説明を聞いても、なるほどとは返せなかった。

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