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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の盾3

 死から蘇る間の話だ。


 視界にはリリベルとネリネの姿が映っていて、俺の方へゆっくりと近付いて来た。

 だが、2人とは違う声が聞こえる。

 死にかけの身体と朦朧とした意識が、幻聴を生み出している。


 顔を横に向けているから、後ろに別の誰かがいる可能性は残っているが、それにしてはやけにあらゆる方向から聞こえている気がした。


「私の愛する人間、久し振りだね」


「もうすぐ世界の滅亡が確定してしまう」


「もうすぐ私は君の未来が見えなくなってしまう。悲しいけれど、君と君の愛する魔女を破壊しないといけない」


 死ぬ寸前の身体が簡単に言うことを聞かないことは分かっている。

 声は途切れ途切れにしか出せなかった。


 相手に声が届いているのか定かではなかった。


「私では見ることができない未来を作り出すと君は豪語していたけれど、それはいつになるのかな」






「誰だ!!」

「え、リリベルだよ」

「ネリネーー!!」


 身体を起こして声の主を探すが、近くにいたのはリリベルとネリネだけだった。

 服は血だらけだが、身体はすっかり元通りになっていた。


 幻聴を聞いている間に死んだことが分かった。


「誰か探しているのかい?」

「何だか声が聞こえたような……」

「変なパパ」


 2人によると俺の近くに別の誰かがいる訳ではなかったようだ。ともなると、やはり幻聴だったのか。


 どこか聞き覚えのある声だったような気がするのだが。


「パパ、ママ。お腹空いた」


 聞こえた声をもう1度頭の中で呼び起こそうとするが、ネリネが俺の胸に飛び込んで来たことで意識が向けられなくなってしまった。

 その後は声のことを思い出すこともなかった。




 それよりも先に、この場から早く逃げることだ。

 今なら誰の監視もつかずに、リリベルをこの地に留めておきたいファフタールの邪魔もなく、町の外に逃げることができる。


 ネリネには暫く腹の空きを我慢してもらって、俺たち3人は黄金の大地を後にした。






「そもそも採掘場に来る前にしっかりと食べたじゃないか。3人分も」

「でもお腹減ったー」

「太るぞ」

「ネリネは魔力の扱い方をまだ知らないから、食い気で魔力を蓄えるのも仕方ないことだね」


 そもそも食事をしただけで魔力が増えるのか。


「当たり前さ。肉にしても野菜にしても、それぞれに魂は宿っていて、それを食せば自然と魔力は得られるからね」


 続けてリリベルは「食事の後の俗に言う元気になった状態は、血肉だけでなく、魔力も新たに蓄えられたからだね」と言った。

 彼女の言葉に俺はただ「なるほど」と答えた。

 興味がなかった訳ではなく、感心してそれ以上の言葉が出なかっただけだ。




 もし、あの町がポートラスの領内だとするなら、すぐ近くに他国に入るはずだ。

 ポラートラスはそれ程大きな国ではない。多少歩けばいずれ町でも村でも見えるだろう。




 何十回目のネリネの食事の催促があったか分からない。


 彼女が食事をねだる度に近場にある食べられそうな葉や実をもぎり与えた。


 だが、それで彼女の腹の10分の1も満たされることはない。


「悪食で暴食なところは君にそっくりだね」

「俺か……? リリベルではないのか?」

「私かい!? この可憐でお淑やかな魔女をつかまえて、暴食呼ばわりとは、いただけないね」


 リリベルが揶揄したのは、俺が皆を守るために魂を食らった時のことだろう。


 それなら、お互い様だろう。

 彼女は、俺とリリベル、両方から食い意地を受け継いだのだ。




 徐々に風が強くなった。


 森の中の葉々が耳障りになり始めて、辺りは暗くなる。


 月の光が届かない森の中は、暗闇で数歩先の様子すら分からなくなる。

 野宿をするしかないと言うと、満足する食がないと悟ったネリネはぶうたれる。


 彼女の小さな怒りと、怒りを背中に受ける俺の姿を楽しげにリリベルが見る中で、火を起こそうとしたその時だった。


 森の中で明らかに風の鳴りとは異なる人為的な物音が聞こえた。


 ただの動物だったら良いが、俺たちに危害を加える魔物や盗賊だったら良い状況ではない。

 彼女たちの前に出て、物音のした方に向かって声を上げて牽制する。


 すると音を出した者は灯りをつけて、その姿をぼんやりと浮かべさせた。


 背の高さからして大人ではなかった。

 キャスケット帽子を目深に被っているが、ちらと見える髪は黒い。

 服装は町の子どもと余り変わらず、何でもないズボンと何でもないシャツを着ているだけだ。


 だが、それが近付くと、その何でもない特徴が彼だけの特徴であると気付けた。


 背中に大きめのバッグを背負っており、脇に大きな板と紙を挟んでいて、可能性が確信に変わる。

 目深に被ったキャスケット帽子は赤い1本角を隠すためだ。


 顔立ちは歳の若さもあってか、中性的で一見すると女の子と見間違ってしまうかもしれない。


 彼はクロウモリだ。


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