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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の盾2

 これだけ傷をつければ十分だ。


 ファフタールは俺に釘付けだ。


「リリベル! 俺が注意を引きつけるから、ここを離れてくれ!!」


 彼女が俺の声を聞き届けてくれたかは分からない。


 その前にファフタールが更に暴れて俺は下敷きになったからだ。

 不死の力をこれでもかと利用して、俺はリリベルたちから遠ざかる。


 自身を攻撃する魔力が消えずにうろちょろしていると認識してくれているからこそ、ファフタールは俺を執拗に狙ってくれているのだ。


 ここまでは思い通りだ。


「さて、ここからどうする」


 思わず独り言を呟いてしまうくらい、この後の考えはない。


 全てを教えてくれる知る神(ケセロ)が恋しくなる。




 死を繰り返しながら逃げて俺を追うファフタールは、遂に殻から身体全体を現した。

 後ろ足も人間の手の形をしており、4本足というよりかは4本手と言った方が正しいだろう。

 そんな不気味な両手足に、とぐろを巻いてくれているからこそギリギリ視界に収まる長い胴体。

 二又に分かれた禍々しい首。

 そして、曇りと勘違いするぐらいの太陽の光を遮る巨大な翼が広げられている。


 リリベルに教えてもらった通りの姿をした魔物がそこにいた。


 端が見えない黄金の採掘場も、奴にとっては大した広さには感じられないだろう。




「生まれた! 皆、生まれたぞ!」

「おお! 黄金だ! 黄金の導きだ!」

「何をやってる! 早く逃げろ!!」


 ファフタールに向かって両手を上げてゆっくりと進んで行くドワーフたちは、俺の言葉に耳を傾ける気など全くなかった。


 彼等を助ける暇があれば良かった。


 全力で走って、1人でも担ぎ上げられたとしても、もうその次の瞬間には、ファフタールの腕が薙ぎ払われて、そこにいた全員が根こそぎ破裂して死ぬのだ。


 奴は黄金に魅了された者たちの魔力を吸収して生き続ける生態だというのに、なぜ皆を殺しているのか。


 俺が奴に攻撃して怒らせたからか、生まれたばかりで理性を持ち合わせていないからか。

 半分は俺のせいだ。




 だが、ここまできたのだから後はやり遂げるだけだ。

 例え死に続けても、いつかはファフタールを倒せる。


 相手は此方の想像を遥かに凌駕する力を持っている訳ではない。

 この程度の絶望感なら、まだ対応できる。




 俺に向かってくると分かっているなら、迎え撃つだけなのだ。


 今、瞬間的に生み出せる、最も大きな物体の具現化を行った。

 巨大な岩石のトゲを黄金の大地に生み出して、それと共にファフタールに食われる。


 本当は想像し得る限りで、最も硬度のある物体を具現化するつもりだったが、魔力管がボロボロであらゆる物が中途半端な状態で具現化されてしまう。


 だから、自然と戦いは長期化する。

 一撃で倒せたはずの敵が一撃で倒せないのだ。


 ファフタールの口から血が溢れるのが良く見えた。


「勢い良く食べ過ぎだ!! 口を切るぞ!」


 俺の言葉でも聞こえてるのではないかという具合に、丁度良い瞬間に蛇の重なる悲鳴が返される。


 明確にファフタールの巨腕が俺に向かって放たれる。


「腕にも鱗を纏うべきだったな!!」


 腕が1番攻撃のし甲斐がある。

 中途半端な具現化でも傷を容易に与えられるからだ。


 それでも奴に傷を1つ付ける度に死んでいる訳だが。




 首と腕の往復を繰り返して、俺を何とか殺そうとするファフタールは、今や首や腕のあちこちから血を流しているのがはっきりと分かった。


 黄金の大地はいつの間にか、赤が入り混じって狂気的な色合いになる。




 奴の動きが徐々に鈍り始めた。

 今なら倒せる。


 何だ。

 案外大したことないじゃないか。




「ギイイイイン!!!」




 音というよりも、単なる衝撃波だった。


 目には見えない攻撃が身体の全てを砕いた。


 奴は弱ったから動きが鈍ったのではないと悟った。

 ただ、怒りが冷めて冷静になっただけなのだ。




 ファフタールが4本の手を掻きながら、翼を3度羽ばたかせるとその巨体が宙に浮かぶ。


 後は等間隔で翼を下げては上げてを繰り返し、空へ遠のいて行く。

 羽ばたくだけで嵐が巻き起こり、乱れた風の真下にいた俺の身体は無理矢理捻じ曲げさせられた。


 そして、長い長い胴体を伸ばして、奴は空の向こうへ飛び去ってしまった。




 奴の姿が見えなくなるまで随分と時間が掛かったが、それでも俺は死に切れず、奴が飛ぶ姿を黙って倒れて見ているしかなかった。


 倒せはしなかったが、リリベルとネリネから危機は去ったのだ。

 これで良しとしておこう。


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