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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の卵2

 夜になった。


 宿の主人クルシュが提供してくれた食事を食べ、マッサージ椅子を堪能して、努めて宿の優しさを堪能した、振りをした。




 1つ気になった出来事は、町人たちが金でできた家宝を持ち寄って来たことだ。

 いらないと言っているのに、彼等は無理矢理押し付けてきて、おかげで部屋は黄金だらけだ。

 ここは俺たちの部屋ではない。出ていく時にどうやって持ち運べというのか。




 夜も静まり、ネリネがぐっすりと眠りこけたぐらいの頃合いだった。


 窓をそっと開け、外の様子を窺い、町人たちがいないかを確認する。

 いない。


「今が絶好の機会じゃないか」

「残念だけれど、機会は失われたと思う」


 リリベルはベッドに座り、足をふらふらと振っていた。


「機会が失われた? なぜ?」

「多くの魔力が私たちの周囲に集まってきている。敵意剥き出しの魔力だよ」

「まさか敵がいるのか!?」


 もう1度外の様子を見てみるが、特に人影は見当たらない。


「うーん、どちらかというとこの黄金たちから感じるかな」

「黄金……?」


 リリベルは小さな黄金の飾りを両足で挟んで持ち上げた。

 はしたないからやめなさいと足をはたくと、小さいながらも重みを感じる音が床に鳴り響いた。


「鉱石に魔力が宿ることはよくあることだけれど、これは自然に宿ったものではなく、誰かが宿らせたものだね」

「違いが分かるのか」

「私は違いが分かる魔女だからね」


 そのキメ顔は余計だが、彼女の言うことに間違いはなさそうだ。


「この黄金は確かに黄金なのだろうけれど、誰かが作った物だね」

「この黄金たちが俺たちの動きを監視している訳か」

「私たちが逃げようとすれば、町の人間たちを寄越して足止めしようとするのではないかな」

「あり得るな……」


 逃げるにしても逃げ方を考えなければならないと悟り、自然と肩は落ちた。

 ベッドに腰を下ろし、次の手立てを考えようとすると、リリベルが尻で跳ねながら俺の横まで移動して来て、頭を膝の上に乗せてきた。


「気を付けた方が良いよ。人間は黄金の魔力に良く当てられて、身を滅ぼす逸話がいくつもある。ヒューゴ君もやがては金に目が眩むかもしれない」

「色合い的に目が眩みそうなのはリリベルの方だろう」

「ふふん、私はただの黄金には()()()()()


 黄衣(おうえ)の魔女を名乗るからには、似たような色である黄金にも興味を持つかと思っていたが、彼女にその気はないらしい。


 部屋の灯りである蝋燭の光は、黄金たちを照らしている。

 鬱陶しさを感じさせる光に、いよいよ嫌気が差してきて、蝋燭の火を消して俺たちは眠りに就くことにした。






 夜を明かして疲れた頭を回復させたからか、朝になって目を覚ますと共に名案が浮かんだ。


 町の外にある金の採掘場を見学して、その後にしれっと逃げたら良いのではないか。

 さすがに町の外に出てしまえば、町人の親切の嵐に巻き込まれることはないだろう。


「この案ならどうだ?」


 櫛で髪を()かしているリリベルに提案した。

 彼女は珍しく髪を後ろで1つに束ねて垂らそうとしていま。普段とは雰囲気の違う装いにしようとする彼女から、俺は目を離すことができなかった。

 恐らくこれは、俺が彼女に釘付けにさせるための作戦の1つなのだろう。


「やってみないと分からないよ」


 身も蓋もないことを言われてしまい、何とも言えない気持ちのまま町の外へ向かうことになった。




 宿屋を出て、俺たちが入ってきた方向とは丁度真反対である北側へ向かう。


 初めに出会った町人に此方から声をかけ、金の採掘場を見学したいと言うと、一も二もなく町人は手を貸してくれた。

 採掘場への入場許可を取るための手続き場へ案内してもらい、そこで書類の記入や注意事項を聞く。


 せっかくだからと採掘体験も勧められたので、乗り気な振りをして採掘に関する書類にも記入を行った。




 そして、2人の担当者が俺たちを採掘場まで案内してくれることになる。


 町の北側から出て、草原地帯を僅かに歩くと、すぐに黄金の大地が視界に広がり始めた。

 地下深くに潜り込み、蒸し暑い薄暗い採掘場に行くのだとばかり思っていたが、予想は裏切られた。


 地上に剥き出しの黄金の絨毯の上で、ドワーフたちがせっせと金鉱を掘り返しているのだ。


「この金鉱は常に地面がせり上がっていて、定期的に掘っていないと山になってしまうのです」

「でも、地下から運ぶよりは大分楽だろうね」


 ネリネはその眩しくも特異な景色に興奮して、きゃっきゃっと騒ぎ立てて、俺の手を引いて早く金鉱に近付こうと急かした。


「ネリネ、金鉱は逃げないから落ち着いて」

「すごい! 金ぴか! 食べられるの?」

「食べるなよ?」


 本当に食べてしまいそうだったので、ここからは彼女の手を離さないようにしないと自身の肝に銘じた。




「ドワーフたちばかりで人間が見当たらないのはなぜかな?」

「領分を分けているのです。大地や山は彼等の領分ですから、私たちは口を出しません」

「森にはゴブリンやエルフが住み着いております。皆で平等に黄金を分け合って平和に生活しております。勿論、町に住むドワーフやエルフもいますから、生き方は自由です」


 2人の案内人は、町の周囲のことや種族について事細かに説明してくれた。

 同時に、森に逃げてはならないことを知る。

 エルフやゴブリンたちに出会えば、町人と同じく熱烈な親切を受けることになり、容易にこの土地から離れることができなくなってしまう。


 説明を聞いているうちに、遂に俺たちは金鉱に足を踏み入れた。


 普通なら岩石が入り混じって、不要なものを削ぎ落として金だけを抽出するはずなのだろうが、ここは単に金という物質だけが広がっている。

 今、ようやくこの地が異常であると知ることができた。


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