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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第3章 すごい列車偉い人殺人事件
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一寸先は魔女

 4度目の大きな揺れで貨物車の荷物は大きく動き、積み上げていた物が前後左右に倒れたりした。

 黒鎧を身に纏っていなければ、物理的に薄っぺらな人間になっていただろう。


「大丈夫か?」


 咄嗟にリリベルを胸の中に抱えてしゃがんだので、俺の鎧に押し潰されていなければ無事なはずだ。

 彼女は無言で鎧にノックして無事を伝えた。

 彼女を離して立ち上がると、暗闇の中から声が聞こえる。


「アスコルト様! 一体どうしてこちらに……。というよりその鎧の方は?」


 暗闇の中から突然、蝋に火を灯した燭台を持つコルトが現れる。

 拘束を解いて貨物室をうろつく俺たちは、彼にとって最悪の印象を与えているだろう。


「ああ、私の夫です」


 リリベルは動揺する素振りも見せず淡々とコルトの質問に返した。もう一方の質問には答えていないが。


「いえ、今となっては気にすることでもありません。今すぐ食堂車に来ていただけますか?」

「おや、どうしたのかい?」


 リリベルとは対照的にコルトはやや焦っているようだ。彼はハンカチで額や首元の汗をしきりに拭っている。


「それが……。お2人を貨物車に連れて行った後、しばらくしてからハント様と……ヴァイオリー様が首を切られて斃れているのを発見しまして……」


 しどろもどろに答える彼を落ち着くようにと肩を軽く叩く。

 だが、暗闇の中に魔女と魔女の仲間が1人いて、お偉いさんが何人か死んでいるというのに落ち着けなんて無理な話だったと、言ってから気付く。


「アスコルト様たちが貨物室にちゃんといるかどうか確かめに来たのと、犯人を見つけるために是非食堂車へいらして欲しいのですが……」


 再び疑いをかけられているのか、それとも疑いが晴れたのか分からないが、俺たちを食堂車へ戻そうとしている彼に対して、彼女はとにかく興味がないとばかりに無視して貨物車の奥へ歩き始めてしまった。

 コルトが魔女を呼び止めるが、手を振るだけで他の反応はないので、仕方なしに俺が小走りで迫って彼女を腕を掴んで止める。


「疑いを晴らすチャンスだ。一旦戻らないか?」

「嫌だよ。人間同士の殺し合いなんて興味な――」


 リリベルは急に止まって、その場で楽しそうに小踊りし始めた。魔法詠唱の一環か?


「ふふん、君が食堂車に戻って犯人を見つけておくれ。私は先に行く」

「それなら俺も一緒に行く。騎士としてリリ……お前を1人にできない」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。でも命令だ。罪の無い人間を殺した悪い人間を見つけてくるんだ、私の騎士よ!」


 彼女は食堂車の方へ大きく指を指して、俺に発破をかけてきた。


 確かに気になってはいた。カンナビヒ辺境伯の顔を見た時から気にはなっていた。なぜ殺されてしまったのか。


 彼らがこれまでに何をやって、どう生きてきたかは知らない。

 知らないけれども、彼らがなぜ殺されてしまったのか知りたい。もしかしたら悪人かもしれない。殺されるべくして殺されたのかもしれない。

 だが、それでも知りたいと思った。




 それに、人を殺した犯人にこれ以上罪を重ねて欲しくもない。

 どうかこれ以上先は何事もなく平和にことが終わってほしいと願う。




 緋衣の魔女がいた血の町では、俺にその力がなかった。

 だが、今は彼女からもらった力がある。決して使いこなせている訳ではないが、それでも以前よりは上手くやれるはずだ。いや、上手くやってみせる。


 もちろん彼女の期待に応えたいという願いもある。その願いの方が今は大きい。


「分かった、やってみる」


 俺は黒鎧の魔法を解いて、食堂車へ向かう。

 するとコルトが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「あの、お2人とも食堂車に来ていただかないと、また疑われると思いますが……」


 少しの間、列車と雨風の音だけが辺りを響かせるだけになって、その後リリベルは「後は任せた!」とそそくさと走り出して次の貨物室へ進んでしまった。

 ポツンと残された俺とコルトだが、燭台で鈍く照らされたコルトが俺の方に引き攣った顔を見せて一言放つ。


「これ、私も疑われますよね……?」

「す、すまない。俺ではアイツを引き戻せない」


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