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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
プロローグ
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首狩祭り

 何とか魔女の誘いを断るために、祭りの様子を見ながら理由を考えることにした。


 ぼろぼろの布切れを纏った黄衣の魔女が祭りについて説明してくれた。

 この町は魔女によって作られた町らしく、その魔女からの加護で平和な暮らしができているようだ。

 祭りは町を作った魔女への感謝を表すために行われるようになったらしい。


「確か緋衣の魔女と言ったかな」


 緋衣の魔女は血を好み、それを操ることに長けていて、医療にも詳しかったという。

 魔女は町人たちが怪我や病気があった際に助けたりして信頼を得たのではないかと予想はついた。




 広場は人の波でごった返している。

 波にさらわれたら、自分の行きたい方向とは別の場所へ連れて行かれそうだ。


 人混みに紛れることを好まない者は、家々の端に置いてある樽や木箱の上に立ち上がり、儀式の様子を眺めている。

 俺も真似をして木箱の上に立ち上がり、物見台を見てみた。


 広場の中央は特に煌々と明るく輝いており、物見台の天辺からは女が腕を振り上げて舞を披露していた。

 顔は良く見えないが、着ていた衣装で判断はついた。


「俺に金をくれた女だ」

「ははーん。だからたくさん金を持っていたのか」


 黄衣の魔女が同じ木箱に登って俺の胸に寄りかかって同じ物を眺めた。

 立ちづらいので自分で立てと、魔女を離す。

 なぜか魔女は少しふてくされたような顔つきをして、仕方ないという様子で自立して眺め始めた。




 舞が終わると、町人たちがざわつき始めた。

 多分これから祭り一番の儀式が始まるのではないか、と魔女は言った。


 首狩祭りというのだから、大方家畜の首を捧げるとかそのような感じだろうと適当な予想をしていたが、ずばりそのとおりであった。


 物見台の下から何人かの男が、動物を担いできた。

 鳥や豚、長いのは蛇か?

 とにかく様々な生きた動物が台の上に乗せられる。


 動物が台に乗せられるごとに、周囲の音が大きくなっていく。

 そして、女は男から真っ赤に染まった斧を受け取り、頭上に掲げた同時に町人たちは大きくうなり始めた。

 皆一同に両手を物見台の方向へ上げている。




 女は掲げる斧を一振りした。

 多分何か死んだ。

 また一振り。

 斧を振るたびに、町人たちは「おお」と騒ぎ、両手を上げて広場の中央へと進もうとしていく。


 豚なんかは一振りで到底首が落ちないので、斧を何度も振るたびに生き物の悲鳴が家の壁を伝って響き渡っていた。




「とんでもない祭りだな」

「祭りとはそういうものだよ」


 若干引いている俺を尻目に魔女は祭りを堪能していたようだった。

 だが、祭りとしては予想ができた内容だった。




 女が全ての動物の首を斬り終わったのか、斧を男に手渡すと礼をした。

 町人たちのうなり声も収まったので、これで祭りは終わりだなと思って木箱から降りようとしたら、魔女に服の袖を掴まれた。

 危ないだろう、と注意をしようとしたが異常な言葉で遮られた。


「祭りの一番盛り上がるところはここ」


 魔女は物見台を指差しており、その方向へ顔を向けると、男が斧を振りかぶっていた。

 それは斧を町人たちに見せつけているのではなく、使おうとしているポーズだろう。この距離からでも分かる。




 物見台に残っている首を持った生き物は斧を持った男と礼をした女だけ。

 間もなくそれが男だけになった。




 すると今までとは比べられないほどの発狂したような叫び声を皆があげ始めた。

 男も女も、大人も子どもも。

 例外なく両手を掲げて叫んでいる。


 ふと気付くと人混みを避けて樽や木箱に乗っていたはずの者も、広場中央に向かって走り始めていた。


 男が台の上に落ちていた生き物の首を何か塗りたくる動作をした後、群衆にいくつも投げ始めた。

 群衆は放られた首を求めて、首に塗りたくられた何かを自分たちの身体にも擦り始める。

 子どもは手が届かないので、大人がやってきて顔や腕や擦りつけるような動作をしていた。




 多分、そこに近付かなくても分かる。

 あれは血だ。


 魔女は俺の方へ振り返ると、笑った。

 それは面白くて笑っているのではなく、どこかつまらそうな何か失望したような冷たい笑いだった。


「これが『魔女の呪い』だよ」

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