金の蔓6
目覚めたリリベルの機嫌は少しだけ悪かった。
リリベルとの約束を破って酒を飲み過ぎ、あまつさえ酩酊状態で彼女に介抱されて、彼女を構うことなくさっさと眠りに就いた。ほとんど覚えていないが、俺は昨夜、彼女にそれ程の悪事を働いたようだ。
だが、口も聞いてくれない程怒っている訳ではない。
少しだけ俺に意地悪をして憂さ晴らしをしているだけだ。
そして彼女は知ってか知らずか、俺が心を跳ねさせる程、妖艶な行動をとって意地悪をする。
わざと耳元で話してきたり、指で脇を突いたり、背中をなぞったりしてくる行動は、普段の快活な彼女からは見られない行動であり、ギャップで彼女を意識してしまう。
そんな彼女の機嫌が直った頃に、改めて俺たち3人は町を出歩いてみた。
ネリネの不思議な魔法で酔いが醒めたおかげで、昨夜の会話の記憶が鮮明に蘇り、この町の、いや、世界の重要性が分かった。
ポートラスは俺が知るポートラスではない。
この国は、地下に巨大な金鉱脈が流れており、浅く掘り起こすだけでも、湯水のように金が湧いてくるらしい。
当然、彼等の収入源は金である。
余程裕福で余裕があるのか、王が民から金を接収することはない。
故に彼等の家のそこかしこに金の混じった物品が、適当に置かれている。
宿にあった金の蔓もそれと同じだろう。
しかし、蔓だ。植物の蔓と同じように、細長いものだ。
なぜ、わざわざ蔓という形態に加工しているのか、不思議で仕方がない。もっと良い形のものがあっただろうに。
リリベルの憂さを晴らすために、再び酒場に赴いた。
昨日訪れた店とは違う店を選択し、席に着くなり彼女は普段飲まない強めの酒を注文した。
「そろそろ俺のことを許してくれるか?」
「許す」
「ありがたい」
彼女の顔が一気に茹で上がる。
彼女の許しは得られたが、代わりの危険がやってくる。酔っ払った彼女は手がつけられなくなる。
彼女に殺されかけたことは非常に印象的で、今でも記憶に残っている。
今、彼女には色々な意味で再び危険な香りが立ちこめ始めている。
「パパ、ママ。それって美味しいの?」
「ネリネはまだ飲んではいけないぞ」
「美味しくないよ」
リリベルは美味しくないと言いつつ、喉を鳴らして酒を楽しんでいる。
彼女が使っているコップも金色だった。
「なんでよー」
ネリネは髪の両側を手でまとめて、頬を膨らませる謎のポーズを取る。
可愛らしくはある。
その後はリリベルの動向を注意深く観察しながら、情報収集を続けた。
そして、この町から北へ向かうと金の採掘場があるということが分かった。
「誰でも採掘できるよ」
「さすがに誰でもは不味いのでは? 国外に流れていってしまうと思うのだが」
「金の採掘場は至る所にありますから、困ることなんて起きないですよ」
随分と能天気な国だ。
金の採掘も、遠いいつかにはすべて掘り尽くして終わりが来ると思う。永遠などないことを彼等は考慮していない。
それに、皆がこぞって金を採掘すれば、大量に金が出回ることになる。金の価値を下落させることに繋がるだろうし、暮らしもどんどん貧しくなっていくだろう。
俺でさえ、このようなまともな懸念がすぐに思いつけるのだから、絶対にこの国の行く先は明るくないはずだ。
だが、皆は口を揃えて問題はないと言うのだ。
誰かに強制的に危機感の欠如を植え付けられているようには思えないが、油断はできない。
こういう時は大抵やはり、誰かが裏で意図を引いていることが多い。
こうなるとポートラスの他の国の状況も気になってくる。
魔女協会という存在も、俺が知っているままになっているのだろうか。
「リリベルはどう思う?」
「私はぜんぜん酔ってないろ」
「酔っているかを聞いている訳ではなくでだな……というか酔ってるだろう」
残念ながら今のリリベルに真面目な話は向かないようだ。
いや、酔うのが早すぎるだろう……。
町に来てからの俺たちは、堕落した生活を送っている。




