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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の蔓2

 道中でネリネに突然の成長の理由を尋ねてみたが、彼女自身も分からないようだった。

 それよりもしきりに腹が空いていることに重要度を置いて、声高に主張していた。


 町に着くまで我慢するように言い聞かせると、泣くことなく素直に聞いてくれた。

 物分かりの良さもリリベルに似ている。


 彼女にはリリベルのマントを羽織ってもらっている。

 町に着いたらまずは彼女の衣服を買わなければならない。


 そう考えていたらリリベルが、あっと声を上げて思い出す。


「お金、持ってる?」

「あ……」

「魔力石を売らないとね」

「お、お願いします……」


 これから向かう町はリリベルの名が知られているのか。知られていなければ、魔力石が正しく売れるか微妙なところだ。


「仕方ないなあ。ヒューゴ君は確かに私に勝ったけれど、こういうところではまだまだ私に及ばないもの。私の手助けが必要なのだね」


 彼女はわざとらしく俺の視線に入り込み、悪い笑みを浮かべて言った。


 明らかに根に持っている。

 俺自身の力ではなかったとはいえ、2度も彼女を負かしたことを彼女は大層根に持っている。


 戦々恐々である。

 余程俺に負けたことが受け入れられなかったのか、その後も俺は言葉責めを受けることになった。




 色々な意味で不安を抱えながら俺たちは町に向かうことになる。






 ネリネに長い我慢をしてもらった末に、町に辿り着くと、彼女はあっという間に町の者たちに食事と衣服を与えられた。


 町に入るなり大勢の町人が俺たちを囲み、困っていることを聞きまくってきたのだ。


 何が起きたのか理解できなかったが、彼等の圧に負けて答えたら、我先にと俺たちの要望に応えてくるのだ。


 嵐のように町人がネリネを通過していくと、彼女は上下ともにお洒落の限りを尽くした衣服や装飾品に身を包まれ、どこからか持って来た椅子に座らされて、机の上にたくさんの食事を用意されていた。


 町の入口付近でしかも人の往来がある青空の下で、食事の場を設けられたこともすごいが、彼等の親切はそれでは止まらない。




「ほら、持っていきなさい!」

「私のもあげるから!」


 金に関しての話はさすがに町人にしなかったが、彼等の質問責めに答えている間に金がないこともバレてしまい、この状況だ。

 金の入った袋を俺たちに無理矢理押し付けて来るのだ。恐らく有り金だ。


 それを皆は何の惜しげもなく渡してくる。


 無償で俺たちの利になることをする訳がない。

 何か裏がある。


 そう思って、何が何でも金は受け取らないと町人に言ったのだが、多勢に無勢で打つ手はなかった。

 1人が無理矢理俺の手に金袋を置くと、後は怒濤の勢いで金を積めそうな部位に積まれていった。


 用が終わって彼等が俺たちから離れていくと、頭や肩や腕などに紐で巻きつけ提げられた金袋だらけになっていた。


 良く見ると金袋には紙が貼り付けられていて、宿までの道行きの地図が描かれていた。

 何と宿の当てまで用意してくれていたのである。


「リリベル、これは一体……」

「もががが」


 リリベルは口からじゃらじゃらと金を吐き出していた。どうやら金の置き場に困った誰かが彼女の口に金を突っ込んだらしい。


「金に溺れて死ぬところだったよ」

「まさか、リリベルは不死の呪いがないのか!?」

「さあ? 死んでみないと分からないよ」

「リリベルなら、こう、魔力の感覚で分かったりしないのか?」

「どうだろうね?」


 彼女はまだ拗ねていた。

 表情からして彼女は自身の呪いがどうなっているか分かっているはずだ。

 わざと本当のことを言わずに俺を困らせようとしていることぐらい、すぐに分かった。


 事実、俺が困った顔をすると彼女は喜ぶ。鬼の首を取ったどころの話ではないくらい喜んでいる。

 意地の悪い魔女である。




 しかし、町に入ってすぐに色々な懸念が解消されたことは喜ばしいことだ。


 恥ずかしかったので、なるべく道の端に机と椅子を寄せて、それからネリネの食事が終わるまで待つことにした。




 その間に通り過ぎる町人に声をかけた。


「この町の者は、なぜ色々と物を与えようとしたりするのだ?」

「おや、この町に流れ着いて来たからには、知っていて来たのかと思ったけれど、来たのは初めてかい?」

「ええ……実はここに来たのはたまたまで……」

「そうかいそうかい! なら、楽しんで行くと良いよ! この町は皆、世話焼きだから!」


 若い男は手を大きく振って言った。

 世話焼きのレベルではない。


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