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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第21章 黄金の杖
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金の蔓

 世界に起きた変化を知ることができたのは、世界を作り変えてからすぐのことであった。

 といっても知った変化は今の所1つだけだ。


 それは、リリベルから全知の力が失われたということだ。


 今、俺たちは周囲に何もないだだっ広い草原に放り出されていて、どの国の領地にいるのかも皆目見当がつかない。

 だから、全てを知るリリベルに尋ねてみたのだが、彼女の頭の中にはその知識は全くないと言われてしまった。


 彼女は、全知のうち、世界を作り変えるのに必要な知識だけは記憶しているが、それ以外の知識はいくら引っ張り出そうとしても浮かび上がってこないようだ。


「真っ先に思いつくのは、知る神(ケセロ)が死んだことによって全知の供給元が断たれたとか……」

黒衣(こくえ)の魔女の仕業の可能性もあるかな」

「リリベルから神になる手段を奪ったということか? それなら全ての知識を奪うぐらいやってみせるだろう」

「うーん、うん。ヒューゴ君の言う通りだね」


 全知が失われて少し惜しい気もしたが、彼女に特に惜しいという気持ちはないようだ。

 彼女はあくまて知る過程に興味を持っており、全ての答えをあらかじめ知った半神だった時は、彼女にとってつまらない状態であった。


「別の世界のリリベルの全知は……ないよな」

「ヒューゴ君の望みを叶えるために必死だったのだもの。()()を直す以外の知識は呼び起こす気にもならなかったよ」

「だよな……」




 もう1つの変化は、リリベルとの間に授かった子にあった。


「ママ、お腹空いた」


 生まれたばかりで目も開いていなかったはずの赤子が、はっきり喋って意思疎通をしている。

 それだけではない。

 身の丈は10歳程の身長で、髪も生え揃っている。瞳は黄金色に輝いているが、髪は黒色だ。

 見た目には女の子で間違いないだろう。


 最初はまさか俺の子だとは思わず、見知らぬ子どもが紛れて来たのかと思った。


 しかし、目元や口元はリリベルそっくりだし、鼻立ちや眉の形は俺そっくりで、間違いなく俺とリリベルの子であることは確かだった。


「こんなところでは食事も作ることはできないし……あ、乳は出るかな」


 彼女はおもむろに胸をはだけさせて子に乳をやるが、その光景は異様であった。

 子が、到底乳をやる育ちではないからだ。


「うーん、出ないね……どうすれば出るのだろう」




 彼女と子は置いて、周囲の様子を確認することにした。

 決して気恥ずかしくてこの場から逃げたかった訳ではない。




 それとは別に、やっと思考に余裕が持たせられそうなので、子の名前も決めようと思った。


 どのような名前が良いか、心中で候補を上げながら小高い丘を上がり切ると、すぐに人工物が目に入った。


 草原続く景色の遠くに町が見えた。




 歩けば1日がかりになるだろうか。


 見える建物の大きさで、大体の距離とかかる時間が予測できるようになったのは、いくつもの旅のおかげだろう。




転移(メタスタス)




 詠唱が上手くいくことはなかった。

 詠唱する前から自覚はあったが、魔力を上手く制御することはできないままだった。

 掌で魔力を放出して、想像していた形に固めていたつもりだったが、上手くいっていないのだろう。


 当然、具現化も中途半端にしかならなない。


 俺とリリベルが世界を作り直す輪に入らなかったことが原因だ。

 俺とリリベルの魔力管はズタズタのままなのだろう。


 ああ、神の力を得た時に、治しておけば良かった。




 ……。




 不死の呪いも治しておけば良かった。




 一気に溜め息が止まらなくなる。




「リリベル、向こうに町があった。そこに行ってひとまず落ち着こう」

「それは良いけれども、溜め息ばっかり吐いてどうしたんだい? もしかしてヒューゴ君も私の――」

「違う」


 なぜ、残念そうな顔をする。


「とにかく行こう。それと……」


 俺は腹を空かせたあられもない姿の子に、考えついた名を述べた。


「今日からお前の名前は、ネリネだ」


 既に物心がついてしまった子が、この名を受け入れてくれるか怖かったが、彼女はまるで興味がないようで素っ気ない返事を返すだけだった。


「良いよー」


 リリベルそっくりだ。


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