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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黄衣の魔女5

 リリベルは五体を真っ白な地に投げ捨てた。とても満足そうな表情をしていた。


「さあ、教えてもらうぞ。なぜ俺に手を貫かせたんだ」


 リリベルの掌は相変わらず血を流し続けていたので、赤ん坊を彼女の横に置いて、彼女の治療を始める。

 リリベルが理由を話してくれたのは、その間だった。


「罰だよ。君に苦しみを与えた私へのね」

「その程度のことで……」

「そう。ヒューゴ君はきっと何が起きても私を赦すだろうね」


 強がっていることぐらい分かる。彼女は冷静な振りをしている。

 笑顔の奥に怯えは確かにあった。

 怪我をした手からは震えが伝わっている。

 俺が彼女に心から怒り、失望することを、彼女は恐れている。


 彼女は怯えを胸に抱えながら約束を果たそうとしてくれている。


「でも、私は私を許せない」


「最後はヒューゴ君のためになると思って、君や君の守りたかった命全てを殺して神様になる決心をした」


「君の望んだ世界を作るために、優しすぎる君では成し遂げられない。だから私が代わりに、ね?」


「それが失敗したと確信した時には、絶望して後悔したよ」


 治療最中の彼女の掌が掲げられて、目の前に大きく映し出された。


「傷跡は残して欲しいかな」

「いや、そんな……」

「傷が残ったら戒めにならないでしょう」


 穴は塞がり血は止まった。

 後は肌の傷を癒やすだけで全てが元に戻る。それなのに彼女は最後まで傷を治すことを拒否して、手を振り払おうとしていた。


 手を離してはならないような気がした。

 このまま彼女の手を離して話を終わらせてしまったら、彼女の罰が確定してしまう。

 彼女の罰だけで終わらせたくなかった。罰と共に救いを受けるべきだと思った。


 手を離そうとする彼女の手を引っ張って握り直す。


「傷は治す。ただ、代わりに俺の言葉を聞いて欲しい。それを罰代わりにして欲しい」

「君の口から私を罰する言葉が聞けるのだね」

「なぜ相談してくれなかったのだ?」

「へ?」

「なぜ、1人で抱え込むんだ」


 彼女の眉がハの字になる。どの口が言うのかという意味を表しているのか、それとも単に悲しみを表現しているのか。

 それでも言うべきことは言おうと思った。


「戦いで頼りになることはないかもしれないが、心持ちぐらいだったら俺にだって役に立つことはある」


 真心は込めたつもりだ。愛情だって込めてある。

 指と指とを絡めるなんて気恥ずかしくて仕方がなかったが、リリベルに想いを伝えるのならそれが1番良いと思った。

 彼女は、俺が到底やりそうにないことをすると、喜ぶ。(なま)めかしい行為であれば、更に効果は上がるだろう。


「う、ふ、へぇ」


 リリベルの頬が僅かに上気していた。照れている。


「そ、そうだね。ヒューゴ君の言う通りだ。私らしくなかったね」

「……もっと酷いことを言った方が良かったか?」

「うん。これでは余り罰にならないかな」


 残念ながら彼女の要望に応えられる叱咤の言葉は浮かばなかった。

 だから、もっと分かりやすい彼女への罰の言葉を与えることにした。


「それなら、口づけは暫くなしだ」

「え゛っ゛!?」


 彼女が絶望したような顔を見せるのは久し振りだ。




 2つの世界のリリベルの魂が1人の身体に含まれた影響は、正直良く分からない。

 リリベルによると、俺のように頭の中に別のリリベルが好き勝手喋っているという状況ではないらしい。


 ただ、記憶はごちゃ混ぜになっているようで、恐らくこの世界では経験することがないだろう未来の経験も彼女の中にあるようだ。

 それでも混乱はない。




「これに関して私は知識を持ち合わせていないから、推測になるけれど、恐らく同一の魂が重なれば1つとして生きることになるのではないかな」


 なるほど、分からん。

 彼女の言葉を聞いて深く考えることはやめにした。


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