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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黄衣の魔女4

 やっと心に余裕が持てると思ったが、どうやらまだ終わりではないようだ。


祝福を(デウスベネディーカト)


 黒衣(こくえ)の魔女は白い床を這いながらも、黒い霧を手から放ち俺に向かわせた。

 多量の病の源が、波のようにうねりながら襲いかかって来るが、それを避ける手段は幾らでもあった。


 ほとんど悪あがきのようなものだった。


『黒衣の魔女に剣を突き立てて、ヒューゴ君の中にいる黒衣の魔女の魂を送り込もう。それで、彼女は止まるよ。そうでしょう?』

『その通りだ』

『では頼むよ、ヒューゴ君』


 彼女に背中を押されて黒衣の魔女に立ち向かう。


 霧は剣のひと振りで簡単に押し戻せた。

 魔力の塊で簡単に押し戻せたからこそ、複雑な気分になる。あの黒衣の魔女が、ただの魔力の塊如きに翻弄されるとは思わなかった。


 他力本願の極みの俺がいうことではないが、神の力の前では奴も形無しという訳か。




悲劇(トゥラゴーディア)




 恐らく、俺が神の力を持たないただの人間であれば、奴の魔法に即座に殺されていたのだろう。


 無意味という言葉が、これ程までに重くのしかかってくるとは思わなかった。


 奴の真後ろに移動する。


 奴は当然気付くが、この実力差の前では気付いた時には既に手遅れだ。

 奴がこの状況を逃れるための全ての動作は、俺の動作に1手遅れる。


 奴の背中に剣を突き立てると、頭の中から黒衣の魔女の姿が消え、放つ魔法の全てが止まった。


「なるほど。これで終わりか」

「黒衣の魔女……か?」

「どちらも私だ」

「それもそうか」


 他の者が聞けば、当然意味の分からない会話に聞こえるだろう。

 別の世界にいた者同士だからこそ、この会話は成り立つ。


 短い会話の後に、黒衣の魔女からの攻撃の意志は完全に失われた。


「私はここで待つ。残務を終わらせろ」


 奴の命令と共に今度は、後方から雷鳴が鳴り響いた。

 雷撃は鎧で受ける。


 爆音で前に抱えた赤ん坊の顔色が歪んだ。

 産まれたばかりだというのに、随分と謙虚な性格だ。これだけの騒がしさに泣き声1つあげない。

 我慢しているのだとしたら、申し訳がなさすぎる。




「神様としての私は負けた。でも、黄衣(おうえ)の魔女としての私はまだ負けていないよ」

「負けず嫌いだな」


 彼女には悪いが、喋っている間に仕留めさせてもらう。

 黒衣の魔女と同じように、リリベルの背後に回って剣を突き立てる。


 これでリリベルも戦う意志をなくしてくれる。そう思った。


瞬雷(しゅんらい)


 神の力があっても今の俺に叶わなかったのに、それでも彼女は立ち向かう。

 負けず嫌いの彼女だからこそだった。


『ヒューゴ君も似たようなものでしょう。負けると分かっても立ち向かう』




 端的に言うと雷を避けることは無理だ。

 魔力が多量にあっても知覚しているのはただの人間だからだ。


 それでも死ぬことはない。鎧が全てを守ってくれる。


剣雷(けんらい)


 剣の形を留めた雷が宙に浮いていた。


「両手の魔力管はボロボロだったはずだが」

「ふふん。手が使えなくたって、目で雷を作ることはできるさ」

「さすがだな」


 気付けば雷の剣は振り下ろされていた。

 いつもなら盾で防ぐなりしていたが、今はその必要はない。


 彼女は天才だ。


 天才であるが故に、俺は心を傷める羽目になる。

 彼女の知識と技術の結晶が、雷の剣となって表れているというのに、常軌を酷く逸脱した神の力で呆気なく対処できてしまうことが、とても嫌だった。

 そんな軽々しく破って良いものではない。


 だから、こんな力、早くなくなれば良いと思えた。


 剣で振り払うと雷の剣は悲しい程簡単に弾かれていった。

 そして、続けざまに彼女の肩に剣を優しく置いた。


 すると、頭の中にいたリリベルが消えて、目の前のリリベルも遂に戦う意志を失った。

 彼女の中に別の世界の彼女の魂が混ざったおかげで、彼女は俺に何が起きているのか、別の世界の彼女がどういう思惑でことを進めようとしているのかを理解した。


 それが次の言葉で分かった。


「私の負けだね」


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