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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黄衣の魔女3

 例え、リリベルの掌を剣で刺した後に、素晴らしい結末が待ち受けていると分かったとしても、刺すことはできない。

 それだけは絶対にできない。


「リリベルは俺の主人であり、俺が最も信頼できる魔女であり、俺が最も愛する女性だ!」


 だから刺すことはできない。

 俺はしっかりと言葉で心中を彼女に伝えた。


 だから、次は彼女の心中を尋ねた。


 言葉で分かりやすく伝えて欲しいと願った。


 それでも彼女は言葉で伝えてくれることはなかった。もどかしさが残り続けた。




 ただ、代わりに表情が変わった。


 爆発の最中に起きる風圧で、彼女の髪が表情をほとんど隠し続けていたため、一瞬しか確認できなかった。一瞬でも十分なくらい、印象的な表情だった。

 間違いでなければ、彼女の冷たい眼差しは消えていた。


 もの悲しげで、懇願するようで、今にも泣き出しそうな表情だった。

 目に焼き付いて頭から離れない。


 頭の中のリリベルの懇願と、目の前のリリベルの表情が一致しているような気がした。

 彼女を刺すことにどれ程重要な意味があるのかは分からない。恐らく彼女自身だけにしか分からない。




「信じるぞ」

『大いに信じて構わないよ』




 ゆっくりと剣を彼女の掌に突き出す。

 彼女の掌に当たると、彼女はひと言放った。


「ありがとう」


 ぶつりという音が剣を伝って響いてきた。

 彼女は自ら力を込めて掌を剣に押し付けた。相当な力を込めなければ、剣が掌を貫通させることはないから、彼女は随分と思い切った行動をしたものだ。


 前面の爆発が収まり、彼女の表情がより鮮明に映る。

 自傷した癖に随分と晴れやかな顔色だった。言葉で教えてくれるまで理解はできなかった。




 彼女の頬に涙が伝うと同時に、頭上の光輪が軽快な音を立てて割れ落ち始めた。

 魔力を奪い続けて、彼女に半神を保つための力が残されていないことを察知する。




「リリベル?」




 何を思ったのか、突然彼女は貫かれた掌を思い切り引き抜いた。

 当然、血が辺りに撒き散らされた。一体、今の儀式に何の意味があったのか。絶対に後で聞かなければならない。


 此方の混乱を余所に、彼女は天真爛漫に俺に命令をする。


「さあ、後は黒衣の魔女だよ!」

「意味が、分からん!」


 リリベルの血が付着したままの剣を振り払って、訳が分からないまま向きを後ろに変える。


 もう1つの世界を作り変える爆発に立ち向かう。


 盾で守る者が1人増えたから、余計に瞬間移動の手は使えない。1歩ずつ前進しても、奴は距離を置こうとするだろう。

 だから、リリベルから奪った魔力も含めて、俺が持つ魔力ほとんどを全て剣に込めることにした。




 世界1つともう半分程の魔力を全て剣に溜め込むと、さすがに剣に収まらなくなる。


 そんな刀身を遥かに超えた長さの魔力の塊を、ただ横に振るだけで良い。

 それだけで攻撃になる。


 力の限り、魔力の塊を黒衣の魔女に向けて剣の勢いの乗せて投げつける。




 巨大すぎる魔力が自らの勢いで射出されると、爆発となって衝撃波を生む。

 衝撃波は世界を作り変える爆発の衝撃波を軽く飲み込み、後は真っ白な世界だけが残る。




 爆発が止まると、黒衣の魔女の黒い光輪が砕け散り、彼女は膝から崩れ落ちた。


 2人の神としての力が失われるのを確認して、俺はいそいそと放った魔力を回収しに回った。

 再び黒衣の魔女に魔力を吸収されてしまったら、元も子もないからだ。


 必死で魔力を掻き集めている俺を見た頭の中のリリベルは、随分と俺の姿が滑稽に映ったようで笑い転げていた。

 黒衣の魔女とラルルカは至極迷惑そうな表情であった。


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