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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第3章 すごい列車偉い人殺人事件
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好奇心は猫を生かす

 雨が降り始めて外の景色も見づらくなってきたので、部屋に戻ろうかと思っていたら、車掌のコルトが奥の扉を開けてこちらへやって来た。


「アスコルト様、料理はいかがでしたか?」


 コルトが料理の味の感想を求めてきたので、素直な感想として美味しかったと伝えると顔が緩むのが分かった。

 コルトには何用かと聞くと、同僚の車掌が運転の交代から戻ってこないので、確認をしに行こうとしているらしい。


 俺とリリベルも丁度部屋に戻るつもりだったので、コルトと共に客車へ戻ることになった。




 5号車の扉を開けるとロベリア教授の部屋前で、彼が立ち止まっていた。

 良く見ると、ロベリアの部屋の隣の扉が開いていて、人が廊下に出ていた。食堂車の奥に座っていた服装と一致するので、彼がハントだろう。


 ロベリア教授と目が合うと、彼はすぐに近寄りコルトへ話しかけてきた。


「私の付き人がいないのです。2人ともいなくなってしまったのですが、見ていませんか?」

「食堂車より後ろの車両に、お客様は1人もいらしていないですが……」


 ロベリアの言葉に続き、ハントも同じことを言ってきた。


「俺の部屋で待っていた騎士がいない。どうなってんだ」


 かなり大きい風切り音が聞こえていたので、音の源はどこかと探していたら、ロベリア教授の部屋の扉から中を覗くと、どうやら窓が開いているようだった。


「ロベリアさん、部屋の窓は開けたのか?」

「いえ、閉めてあったはずなのですが。――まさか列車から飛び降りたと言うのでしょうか!?」

「いえ、それは分かりません」


 俺がロベリア教授と会話していると、コルトは雨が部屋に入るからと窓を閉めてしまった。


「おい。俺の部屋も窓が開いているんだ。閉めてくれないか」


 ハントはコルトに自分の部屋の窓も閉めるよう促して、同じように窓を閉めた。

 これで五月蝿い風切り音はなくなった。


「もしかして私たちの部屋の窓も開いていたりしないだろうね」

「確か荷物は窓の側に置いてあったよな」


 俺とリリベルは顔を見合わせてから、急いで自分たちの部屋がある3号車へ走った。




 4号車も同様に2つの部屋の扉が開いていて、ゼンゲとカウゼル男爵が扉の外で騒いでいた。


「アンタの所の従者もいないのか」

「一体これはどういうことだ……」


 そして廊下を走っている間に見えた部屋の中は、5号車の部屋と同じ箇所に取り付けられていた窓の戸が開けられている。

 雨が部屋の中に入ってきており、列車が走っているためか大きな風切り音が窓から廊下に流れ聞こえてくる。


 5号車も4号車も同じ状況だとすると3号車も怪しいな。


「もしかして盗賊が何かが入ってきているのかもしれないな」


 走りながらリリベルに問いかけると、彼女も同感のようで俺に気を付けるように言ってきた。

 3号車の廊下に足を踏み入れる前に、詠唱し黒鎧を発現させて身に纏わせる。


 俺がリリベルと目を合わせると、彼女が無言で頷いたのが見えたので、次の客車へ移動した。




 3号車の廊下に人影はなかった。

 だが、雨音と4、5号車で聞こえた風切り音と同じ音が微かに部屋の扉から聞こえてくる。


 カンナビヒ辺境伯の怒鳴り声は幸い聞こえてこなかった。


 俺たちの部屋の扉を開けてみると、風切り音がはっきりと聞こえるようになった。

 窓は開いているし、雨が入り込んでしまっている。


 部屋の中は壁際に掛けられたいくつもある蝋燭の光で、ある程度物は見えるが、人影らしきものは見当たらない。

 黒鎧の魔法を解いて、急いで窓の戸を閉める。

 幸い窓側に置いてあった荷物は、列車が走っているおかげか、一定方向からの雨しか吹き込んでいなかったので濡れていなかった。


 部屋の窓は3つあるのだが、ここも1つだけしか開いていないようだ。

 俺のすぐ後ろに付いて来ていたリリベルが手を耳にあて聞き耳を立てている。


「なんだか、風切り音が聞こえるね」


 確かに耳を澄ませると音が聞こえる。

 だが、この部屋の窓は全て閉め切ったことを今し方確認したばかりだ。

 それではこの音は一体どこから出ているのか。


 隣の部屋、カンナビヒ辺境伯の部屋だろうか。


 2人で隣の部屋へ意識を向けていたその時、廊下から男の悲鳴が聞こえた。

 俺はすぐ様に廊下に出ると、カンナビヒの部屋の前にカウゼルが立っていた。

 焦っているような顔付きをしていて、廊下に出た俺と目が合うと部屋の中を指差して注目を促した。


 すると今度は4号車の方からコルトが、2号車の方から別の車掌が現れた。


 遅れて部屋を出てきたリリベルとも合流し、皆でカンナビヒの部屋の中を覗くと、すぐ目に入る窓の戸が開いており、その下でカンナビヒ辺境伯が胸を血だらけにして座り込んでいた。

 だが、彼が動きそうな気配はない。


「アスコルト様! カンナビヒ辺境伯の怪我を魔法で治せないでしょうか!?」


 コルトがすぐにリリベルにお願いをしたが、リリベルは部屋の中に入り、カンナビヒの姿を近くで見ると首を横に振った。


「無理だよ。彼の命が尽きている。怪我を治しても再び動き出すことはない」


 リリベルは冷静に言葉を吐いて、そして再び廊下へ戻ってくる。

 既に彼女はカンナビヒの死体に興味がなさそうだ。


「本当に死んでいるのか?」


 カウゼルが怯えながら聞いてくると、リリベルは無言で頷き、彼は一層動揺し始めた。

 リリベルと入れ違いで今度はコルトともう1人の車掌が部屋に入り、カンナビヒの姿を確認した。


 コルトは開いていた窓を閉め、もう1人の車掌はカンナビヒの胸を確認していた。


「こりゃあひでえ……。服にいくつもの穴が開いている。刺されているように見えるな」

「まさか殺されたのか……?」


 カウゼルがゆっくりと部屋の中に入ってきて車掌の後ろまで近付いていき、カンナビヒの様子を確認していた。

 コルトの方は突然ハッとした様子になり、走り出した。


「2号車と1号車の様子を確認してきます!」


 ストロキオーネ司教とヴァイオリー大臣の無事を確認するためのようだ。

 カウゼルもストロキオーネ司教の身を案じたのか、コルトに続いて走って行った。


 車掌はカンナビヒの身体を横にして、ベッドのシーツを彼に被せようとしていたので俺もそれを手伝うことにした。


 シーツをかけようとする間、なぜか車掌の目線は常に俺の顔へ向けられているのが怖かった。

 もしかして、俺が殺したと疑われている訳ではないよな。


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