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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黄衣の魔女2

 黄衣(おうえ)の魔女と黒衣(こくえ)の魔女の信念と俺の信念をぶつけ合っているかのようだった。


 持てる全てを出し尽くす戦いは、聞こえは爽やかに感じるだろうが、戦いはほぼ一方的であった。


 頭の中のリリベルと黒衣の魔女が、半神のリリベルと黒衣の魔女の攻撃を相殺してくれるからだ。

 2人の攻撃を完全に相殺できるまで若干の時間差はあるが、その時間を耐え凌ぐことはできている。

 皆の魂で作られた鎧があるからだ。


 俺は、世界中の命に守られて生きている。




 先に大きな行動に出た者は、物事が進展しないことに焦りを覚えた黒衣の魔女だった。

 幾ら知識があっても、それらを全て活用して俺を倒すための物事を推し量ったとしても、良い案が浮かぶことはなかったのだろう。


 だから、やぶれかぶれの爆発を起こした。


 奴の頭上の黒い光輪の更に頭上から黒い球体が発生して、真っ黒な衝撃波を生み出す。


 赤ん坊に被害が及ぶことは即座に分かった。

 衝撃波が赤ん坊に到達する前に、瞬間移動により拾い上げて腕で包む。


 瞬間移動という手では鎧の外側にいる赤ん坊を守り切ることはできない。

 赤ん坊を守りながら戦うことは大きな隙を生むと、リリベルが即座に察知して行動することは、俺も察知していた。

 顔を上げて目の前に現れた彼女と視線が合う。冷たく、くだらない物を見ているかのような表情で見下ろす。




『補足させてもらうけれど、私がこんな表情をしている理由は、気を緩めたら泣いてしまうからだよ』




 黄衣の魔女は俺を信頼している。

 俺が赤ん坊を守るために全力で魔力を使う性格だということを、彼女は()()()()()

 彼女は、その隙を狙って俺を殺したいのだということも()()()()()

 別に全知でなくとも、これぐらいは分かる。


 黒衣の魔女と同じように、黄衣の魔女の頭上にも球体が発生する。

 そして、それは即座に爆発して広がった。




『世界を作り直すための爆発と同じものだね』


 リリベルが解説をしてくれている隙に、赤ん坊を守る防御の手段を具現化した。想像力に乏しい俺にとっては、それが精一杯の守るための魔力の塊だ。


 前後から襲い来る世界を作り変える爆発から、たった2枚の盾で世界中の命を守る。

 盾を持つ必要はない。盾に前進するよう念じれば勝手に進んでくれる。


 これ以上失う訳にはいかないという気合いだけで、爆発を乗り切るつもりだ。

 当然、黒衣の魔女には無意味な力の使い方だと馬鹿にされた。


『盾という概念を持って生み出してしまったら、その概念に引っ張られて盾で防ぐことのできる範囲でしか守るように考えない』


 リリベルは興奮していた。


『ヒューゴ君ならそうするって思っていたけれど、この盾は盾本来の概念を超えて、上下左右どこからでも守ることができるじゃないか! 私だったら混乱してしまうのに、君はすごいね!』


 何か形を想像しておかないと具現化ができなかっただけなのだが、リリベルが喜んでくれるなら敢えて訂正する必要はないだろう。




「君の魔力管は極彩衣(ごくだみえ)の魔女によってボロボロのはずで、具現化は上手くいかないはずなのに」


 前方から発生し続ける衝撃波から声が耳に届いた。


 黄衣の魔女はあくまで表情を崩さないままであったが、それでも盾が盾としての機能を果たし続けていることに、不思議そうな見解を示した。

 だから、俺は彼女に意地悪をしてやった。ここで俺は散々彼女に翻弄されてきたのだから、少しぐらいのお茶目は許されるだろう。


「全知でも分からないのか?」


 盾と共に徐々に歩みを続けて、彼女の前に到達する。


「不思議だね……分からないよ」


 剣を握り締め直して、盾から腕を伸ばす。彼女が放つ爆発の魔力を鎧と剣で吸収し続けながら、会話を続ける。


 魔力が吸収されていることは、彼女は既に知っているはずだった。

 すぐに爆発を止めて魔力の吸収を阻止すると想像していたが、不思議なことに彼女は衝撃波を発し続けていた。


「それなら、半神としてのリリベルではなく、黄衣の魔女としてのリリベルとして、考えてみてくれないか」




 彼女は掌1つを俺に突き出してきた。




「……何となく分かったかもしれない」




 掌を差し出したのなら、手を取ってくれとの合図だと分かる。

 だが、掌を前に突き出しているその仕草にどのような意味があるのかは理解できなかった。

 単純に考えるのなら、それは拒否の意味を示す仕草だ。


『ふふん、ヒューゴ君。私を信じて、私の掌をその剣で貫いてご覧』


 頭の中のリリベルが自信満々に、俺が最もできないことを指示してきた。

 絶対に承諾できない指示に、俺は思わず声を上げて拒否してしまった。


「できる訳がないだろう!!」

「そうだよね」

『いいや。なるべく君の心を痛めずに、私に痛みを与えるために、敢えてあの私は掌を出したんだよ』

「なぜ、言葉を濁して詳しいことを教えてくれないんだ!」

「ふふん。これが黄衣の魔女だからだよ」

『同じ私だけれども、さすがにそれは本人の口から聞いて欲しいかな』


 俺の質問にそれぞれのリリベルが答える。

 頭の中のリリベルはともかく、目の前のリリベルと正しく会話できていることが不思議であった。


 ただ1つ理解できることは、両方のリリベルは、なぜか俺に剣で刺されることを望んでいるということだった。


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