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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黒衣の魔女9

 黒衣(こくえ)の魔女の目的は分かった。

 後は元の世界に戻るだけだ。


 俺は喜び抱きつくリリベルを剥がして、彼女と正面から向き合って彼女に願った。


「俺を元の世界に戻すことはできるか?」

「できないと言ったらどうするつもりなんだい?」

「できる。俺の主人なら、絶対にできる」

「ふふん」


 神である前に、彼女は黄衣の魔女だ。

 例え彼女の他に全知の者が現れようと、知識を活用することにおいて彼女の右に出る者はいないと、自信を持って言うことはできる。


 彼女の騎士だからだ。


「ヒューゴ君の魔力を辿って、君の世界の私を魔力で感知する」


 彼女は俺から立ち上がって、両手を腰に当てて胸を張り目を瞑る。

 この星々のどこが俺のいた世界だったのかは途方もない時間がかかるだろう。覚悟はしている。


「見つけた」


 覚悟が無駄になった。


「もう見つけたのか?」

「君が絶対にできると言ったおかげだよ」




 彼女は一瞬で黒衣の魔女の真後ろにまで移動して、奴の頭を鷲掴みにして言った。


「ヒューゴ君、元の世界の私を救うついでに私も救ってもらうと言ったことを覚えているかな?」

「先程話したばかりのことだ。勿論、覚えているさ。()()()()のことを放ったまま、この世界に1人で置いていくことはできない」

「そう。それなら黒衣の魔女、ヒューゴ君の願いに免じて、君の願いを叶えてあげるよ」


 リリベルの言葉に後に、瞬きをしたら、足元の大地も、黒衣の魔女の姿もリリベルも消えていた。






 その次の瞬きでは、真っ白な世界の上で、いつの間にか鎧を着て剣を持ち立たされていた。




 目の前で項垂れる光輪が咲いたリリベルと、同じくリリベルから魔力を奪い取り続けている黒い光輪の黒衣の魔女がいた。




 黒衣の魔女の意識をリリベルから俺に向けるべく、息を吸い込み吐き出すと共に音を放つ。

 当然、2人が俺に視線を向け、同じように目を見開いて俺の姿に驚いた。


「ヒューゴ君!?」

「馬鹿な。どうやって戻って来た」




 驚いているのは俺の方だ。

 目の前にリリベルと黒衣の魔女がいるが、頭の中では、(うずくま)ったままのラルルカの両隣にリリベルと黒衣の魔女がいるのだ。


 同じ魂が目の前と頭の中にそれぞれ存在している異常な状況に、動揺しないでいられるものか。


『君が今持っている魔力は、僅かに残ったこの世界の魔力と、私がいた世界の()()の魔力だよ』


 頭の中のリリベルは自慢げに言ってから、指を差して更に続けた。


『さあ、ヒューゴ君! ()()の2人を分からせてご覧よ! この場で誰が1番神様に相応しいのかをね!』


 啖呵を切ったリリベルに乗せられて初めて気付いた。

 俺の魔力管では到底溜め込むことはできない膨大な魔力が、身体に含まれていることを確かに感じた。


『君は神様なのだから、それぐらいできて当然さ』




 彼女は俺を移動させるついでに、あの世界全ての魔力と自らをこの世界に移動して来てしまったのだ。




「黒衣の魔女が、再び君を異なる領域に移す前に、君を殺してしまわないといけないね」

「お前に有利な状況にさせると思うか?」


 まさか、リリベルの口から俺の殺人予告が出るとは思わなかった。


『君の願いを叶えるために決まっているじゃないか。それなのに、肝心の君の魂がなくなっては困るのだよ』

『お前1人の持つ魔力が、黄衣の魔女との戦いを左右するなら、当然お前の存在を消すべきだろう』


 頭の中の黒衣の魔女とリリベルと、実在する黒衣の魔女とリリベルが、相対しているかのようだった。


 目の前の2人は、理由は違えど、俺をこの世界から殺すつもりだということが分かった。


『ヒューゴ君。君は私と黒衣の魔女を弱らせて欲しい。弱った所を、私が私の魂に、黒衣の魔女が黒衣の魔女の魂に取り入って、それぞれの動きを止める。良いね?』


 リリベルの確認は俺ではなく、黒衣の魔女に向けられていた。


『私の目的が達せられるなら、それで良い』


 黒衣の魔女の了承で、リリベルからの許しが出る。


「ヒューゴ君、私のことを恨んでいるかい?」

「いいや、全く」

「ふふん、殺すと言われているのに、その返答するとは。相変わらず君は気が狂っているね……」




 全ての攻撃が瞬間だった。


 目を傷めることもない小さな閃光が弾けると、魔力が鎧をすり抜けて俺に直接流入しようとしてきた。


 何が起きているのかを理解できるのは、頭の中のリリベルのおかげだろう。


 もう1つの黒い閃光は黒衣の魔女のものだった。

 同じく鎧をすり抜けて俺に直接流入しようとしていた。


 だが俺は、死ぬことも別の世界に飛ばされることもない。


 頭の中で2人の魔女が、それぞれの魔力を操作して、俺を害することを食い止めてくれたことはすぐに分かった。

 異なる世界の自身の魔力だとしても、元は同じ魂だ。魔力の性質が等しければ、抑え込むことができるという理屈だ。


 2人の魔力を振り払うように剣を()ぐ。


 ただ、心の中で願うだけで黒衣の魔女の後ろに瞬間的に回り込むことができた。

 奴にとっては慣れた光景も、俺が行えば驚きを隠さなかった。


「何が起きている……」


 奴が俺の剣を避けるためにどこへ移動するかを、リリベルが教えてくれた。

 同時に瞬間移動を行い、先程と変わらず視界に俺がいることに対して黒衣の魔女が再び驚く。


 剣は確かに黒衣の魔女を切る感覚を与えてくれた。


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