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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黒衣の魔女7

 これからのことについて、彼女と作戦会議をするに当たって気掛かりなことがあった。


 俺が質問を行うと、リリベルは腰を下ろすのに丁度良い木箱を生み出した。

 リリベル直々に魔法の授業を行ってもらった時に、先生と生徒を想起させるように、彼女が張り切って雰囲気作りしていたことを思い出した。

 単なる椅子ではなく、木箱を椅子代わりにする方が、彼女にとって味のある状況になることを今でも憶えている。

 石で作られた教壇の上に彼女が立ち、俺は木箱に座り彼女に教えを乞う生徒になる。


黒衣(こくえ)の魔女は、なぜ俺をリリベルが神になった世界に送り込んだのだろうか? 敵に塩を送る行為に他ならないと思うのだが」

「良い質問だね、ヒューゴ君!」


 さっぱりとした髪型のおかげで、リリベルの金色の瞳が良く見える。表情は読み取りやすくなった。

 活き活きしていることだけは確かだ。


「まず、当時の私と黒衣の魔女について話しておこう。あの女と私は、あの時点で実力は同等だったのだよ」


 黒衣の魔女は主に地獄の魔力を吸収して力を手に入れ、リリベルは地上の魔力を手に入れた。

 力関係はほぼ同じで、いつまで経っても戦いは続けられた。

 半神のせいで疲れることを知らなくなり、互いに互いの魔法を相殺し合うから、散らばった魔力を吸収しても差が広がることはなかった。

 そのような2人の拮抗し続ける戦いを変えられる存在は、俺だった。


 この世界のリリベルは、かつての純白の空間に移動した後に真っ先に俺を殺して魔力を奪い、黒衣の魔女との実力差を広げ、戦いに勝つに至った。


「君の世界の黒衣の魔女は、私と君が共闘したり、私が君を殺して魔力を奪い取る可能性を恐れたんだ」

「しかし、それでは今、あの世界では終わらない戦いを繰り広げ続けることになるだろう」

「ふふん、私はすぐその後に負けるよ」


 彼女は自信満々に言った。

 自分のことで、しかも彼女にとって屈辱的な敗北の場面であるのに、なぜ自慢げに話しているのか。


「ヒューゴ君が別の世界に飛ばされたと知ったら、私は戦う気を絶対なくすからね」

「納得した」


 彼女の姿が簡単に想像できた。


「別の世界に吹き飛ばされたら、私は君のことを知覚できない。世界の(ことわり)から外れてしまった君だからこそ、黒衣の魔女は君を別の世界に飛ばすことを可能にしたのであって、普通はそんなこと、できないからね」


 彼女たちの全知は、あくまで自身が存在する世界においての全知であって、異なる世界の知識は持ち合わせていない。例え元は同じ世界でも、可能性が異なっている以上、同一の世界ではないと、彼女は言う。


 故に、俺という魂があの世界から外れてしまえば、彼女は俺を取り戻すことができなくなる。

 幾ら俺に似せた生き物を作り上げても、それが完全な俺ではないという知識を持っているリリベルだからこそ、すぐに絶望して戦うことを諦めてしまうのだろう。


「でも、黒衣の魔女にとっても、これは賭けだよ。元の世界の知識を総動員して、君の結末におおよその予想を立て、君が、黒衣の魔女が神になった世界に飛ばされることを祈った」


 黒衣の魔女が神になる世界、リリベルが神になる世界、俺が神になる世界。

 このうち、俺とリリベルが神になる世界に飛ばした場合、万が一、俺が元の世界に戻ることを恐れた。

 しかし、異なる世界の知識を持ち合わせていない以上、奴にとってその行為は賭けであった。


「そして、賭けは失敗した。あの女はよりにもよって、魔女の中でも1、2を争う程、ヒューゴ君に執着している魔女がいる世界に、君を送り込んでしまった」


 彼女は肩を揺らしながら、良い気味だと怪しく笑った。その表情は邪悪そのものだったが、元の世界の彼女と比べて、素直に可愛げがあった。




「先生、もう1つ教えて欲しい」

「何だい、愛しい生徒君」

「黒衣の魔女がそこまでして神の座を欲する理由は何なのだ?」


 これだけ大それたことをして、俺のこともリリベルのことも世界も滅茶苦茶にして、一体奴は何をしたがっていたのか。

 彼女の全知に尋ねたかった。


「良い質問だね。ズバリ言おう。あの女は、元々、神様だったんだよ」


 もう驚きはなかった。

 彼女がどれだけ恐ろしいことを口にしようと、すんなりと頭の中に入ってくる。


 彼女の話よると、どうやら俺が知覚できる昔よりも遥か昔から、神には代替わりという文化があるようだ。


「どうも長い時を同じ神様で運営していては駄目みたいなんだ。だから、定期的に神の座を巡る戦いが起こっているのさ」

「駄目()()()……?」

「ふふん、そうさ。この文化の成り立ちについて、神様の私に知識がないということは、きっとこの世界の更に外の世界の、大いなる力とやらの仕業だろうね」


 彼女の推測によると、この世界の神は更に上位の存在によって、世界1つの管理を任され、雇われているに過ぎない存在のようだ。

 彼女は空に向かって舌を出して、知覚できない何者かに向かって挑発を行った。当人が見ているかは分からない。


 それでも、これまでの出来事と会話を鑑みるに、彼女の考えは十中八九正しいのだろう。


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