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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黒衣の魔女5

 言葉通り、どうしようもない状況の中で変化が起きたのは、俺が考えることを諦めた頃だった。


 暗闇で良く映える金色の髪が視界に入り、思考停止していた頭が活躍の場を再び与えられて喜ぶ。

 しかし、喜びもつかの間、金色の髪の正体がリリベルであったことが分かり、思考が再び凍りつく。

 此方の混乱をよそに彼女は容赦なく喋り始めた。


『ヒューゴ君。どうして君がここに?』


 音による言葉を交わすことなく、直接頭の中に彼女の声を叩きつけられてしまう。


『うーん……あっ! へぇ、そういうことか』


 1人で勝手に悩み、1人で勝手に解決する彼女の雰囲気は、あの時のリリベルとは少し違っていた。

 つまるところ、いつものリリベルらしさがある。


 暗闇でありながら、彼女の姿はしっかりと確認できた。

 金色の髪もさることながら、金色の瞳も目立ち過ぎるくらい美しく輝いていた。

 唯一無二の色だろう。


黒衣(こくえ)の魔女は、わざと君を此方の世界に送ったのだね』


 彼女は漂いながら、徐々に距離を詰めて来る。


『ああ、ごめんね。私も久し振りに生きている物体と出会って、つい浮き足立ってしまって分かり辛いことを話してしまった』


 彼女が鎧に手を触れると一瞬で世界が切り替わる。

 地に足が着く感覚はいつ振りのことだろうか。景色の変化と同時に、俺は背中から地面に落ちる。


「おおっう……んんーあ?」

「な、なんだ?」

「んー……ああ! ごめんごめん。君以上に長い間言葉を話す機会がなかったから、喋り方を忘れてしまっていたんだ」


 彼女は自らの頭を何度か叩き、何かを直したようだった。


 降り立った場所は殺風景にも程がある砂と石だけの大地であった。

 空は非常に明るく、雲1つない青空が広がっている。明るさの原因は大小3つある太陽のおかげで、元いた世界とは別の場所だということはひと目見て分かった。


 同じく地上に立っているリリベルは、一体いつから散髪を行っていなかったのか、身体よりも遥かに長い髪を持っていた。

 長すぎて根を張るかのように地面に下がっている。

 暗闇で漂っている時には不思議に思うことはなかったが、こうしてみると彼女は異様な出で立ちであった。




「この世界はね。私が神様になった世界なのだよ」


 彼女は初めにそう切り出した。

 若干興奮気味で早口で捲し立てるように話しているのは、久々に俺を見たことによる喜びであると嬉しい。


「私は君と協力して黒衣の魔女を殺した後、すぐに君を殺して神様になった」

「という幻覚世界ではないよな……?」

黒衣(くろえ)の魔女の仕業だと思うのも無理はないね。そうだね、それなら……」


 再び景色が一瞬で切り替わった。

 気付けば鎧が剥がされていて、目の前に目を瞑った彼女の顔が大きく映し出された。口は塞がれていた。


 彼女が満足するまで長い時間がかかった。


 彼女の唇が離れていくと、剥がされていた鎧が即座に身体を覆い、再び狭い視界に囚われることになる。

 夢を見ているかのような無茶苦茶な展開だったが、彼女との口づけだけが夢であることを否定してくれた。


 口づけそのものの感触も、口から離れた後に見せる彼女の微笑みも、心に強く刻まれた過去のリリベルと寸分の違いもない。

 彼女は紛れもなくリリベルだ。


「信じてくれたようで嬉しいよ。勿論、私も君と口づけができて嬉しいよ?」

「わ、分かった、分かったから続きを話してくれ」

「照れている君を見られるなんて……君はどれだけ私を幸せにすれば気が済むのかな?」


 恥ずかしさで顔から火が吹く程の言葉を彼女は堂々と言い放ち続けた。男らしさすら感じた。

 彼女は俺が動揺する様子を暫く観察した後、やっと満足した。

 このやり取りもあってか、リリベルを幻だとはもう思うことはなかった。


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