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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黒衣の魔女3

 1人がその言葉を唱えると、皆が一斉に意見を合わせたかのように1つに視線を合わせた。

 勿論、俺の心の中の話であるから、彼等が何を考えているかすぐに分かった。


 だから、当然彼等に物を申した。

 しかし、彼等は俺の意見を聞こうともしなかった。もう腹は決まり、多数派で固められた意見で少数派の俺を駆逐する勢いだった。


『ヒューゴの血を見て皆に伝えた、ああ伝えたさ』


 エリスロースがお得意の魔法で俺の血から記憶を読み取っていたことを教えてくれた。


『ヒューゴ様の中に入ってから、リリベル様にかけられた呪いを詳しく調べさせていただきました』

『魔法に長けた我々が(けい)の魔女の呪いを解読した。似たものをかけられるだろう』


 チルとラザーニャたちのいざこざはいつの間にか終息していたようで、2人は仲良く自慢げに知識をひけらかそうとした。


『ラザーニャ様、トゥット様。これ以上の予定外の行動はとらないようにしてくださいね』

『分かった分かった。そう脅すな。全く最近の若いもんは……』

『危険回避のための手段は多い方が良いと考えただけのことよ』

『その話は終わりましたよね?』

『そう目くじらを立てるな。今度はお前の意向に添ってやろう』


 チルはじとっとした目つきで裏切り者を見た後、すぐに俺に意識を切り替えて言った。


『ヒューゴ様。ヒューゴ様は私たちには持っていない異常な優しさを持ち合わせています』


『私たち魔女がどれだけ生み増やされても、誰1人として自らの興味の外にある者たちに目を向けることはありませんでした』


『だからこそヒューゴ様は、あらゆる魂に好かれてきたのです。他種族を嫌う()()、信者たちを救いたがる神でさえも、ヒューゴ様に興味を持たせました』


『この言葉が正しいかは分かりかねますが、ヒューゴ様。ヒューゴ様は、あらゆる魔力に愛されているのです』


『魔力は全てヒューゴ様のものです』


 魔女たちの意見に沿うように、他の者も声を高らかに呪いに賛同した。


『ヒューゴさんのためなら何でもやります!』

『貴方に受けた恩を返したいのです!』


 魔女の呪いを良く分かっていない者たちも、ただ俺のためになるならと魂を喜んで差し出そうとしてくれた。


『この世界を救ってください!』


 無垢な者たちの素直な想いが、心の中で弾ける。その怒涛の感情の嵐は、心を揺るがせた。


 後の話は早かった。


 急ぐように皆が口々に誓いの言葉を立て始めた。

 呪いを呪いとして発動するための約束は、その全てに効力を発生させた。

 心の中で魂たちが勝手に契約を迫ってきた。




 考える暇ぐらい与えてくれても良いじゃないか。

 そう思ったが、彼等は決断を迫った。




『ヒューゴ、後は頼むぞ』




「おい、待――」




 喋ってしまった。

 皆の言葉に応えてしまった。


『魔女の呪い』が誓いの言葉とそれに応える言葉さえあれば良かったことを失念していた。

 魔法陣や魔力などは、魔女たちによっていかようにもできてしまう。


 膨大な数の魔女の呪いという契約が取り交わされ、即座に身体に変化が起きた。

 正確には身体の周囲の変化だ。


 黒い鎧と黒い剣。

 気付けば俺の身には鎧が纏っていて、手には剣が握られていた。

 姿だけは慣れ親しんだいつもの出で立ちとなっていた。


 身軽に動けるために、常に軽さを意識して具現化していたが、これらは軽くはない。魂の重みをしっかりと味わえと言わんばかりの重さを感じた。


 対照的に頭の中は軽かった。

 騒がしくて仕方のなかった魂たちの声は、今はもう聞こえない。祭りの後の静けさのように、寂しく抜け殻のような想像の空間が残るだけだった。


 彼等に背中を押され、引くことができなくなった俺は、赤ん坊を床に置き、剣を強く握り直して前に進むことしか許されない。


 動かせる範囲で身体をまさぐってみるが、鎧を脱ぐための仕掛けはない。

 全身が完全に鎧で覆い尽くされてしまっていては、自力でこの鎧を脱ぐこともできない。

 破壊するしかないだろう。


 戦いたくないのなら、魂を殺して鎧を脱ぐしかない。

 勿論、俺にそのようなことはできないと知って彼等は、このような不便な構造にしたのだろう。


『ことが終わるまで鎧を脱ぐな』


 言葉で言われなくても、彼等が伝えたいことは嫌という程に伝わってきた。




 リリベルが俺を想ってかけた『魔女の呪い』は、神のご加護すら退ける。

 チルが俺を特別視したのはこの力なのだろう。

 優しさなんかではない。優しさで全てが救えるなら、このようなことにはなってなかったはずだ。


 信じてはいない。


 今は信じることができない。


 だが、きっとそのうち……。




 世界の(ことわり)から外れて運や常識を許さないこの身体に、同じ力を持った鎧と剣が重なる。


『アンタを守る防具になるのも、戦う剣になるのも嫌よ!』


 頭の中でただ1人、ラルルカだけ小さく膝を抱えて嫌悪感を表した。

 彼女だけは、他の魂に同調しなかったようだ。


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