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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第20章 強くて愛しい魔女よ
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黒衣の魔女2

 今の俺はリリベルの手助けなしに、ダリアの魂を取り込むことができない。

 ダリアの死体の前に来て魔法陣を描いてみたものの、この後にどうすることもできなかった。

 だが、驚いたことに魔法陣を描きあげた直後に、ダリアの声が頭の中からすぐに聞こえてきた。


『リリベルが私を殺さない自信があったのだが、驚いた』


 魔法を詠唱せずにダリアの魂が取り込めた理由は、リリベルの力としかいえないだろう。

 彼女は最早、先程までいた世界の(ことわり)から外れに外れている。


『神の1歩手前。半神の領域に達しておるのう』


 やっとトゥットの言葉を聞く余裕ができた。

 赤ん坊をしっかりと抱き、トゥットに賢者の石の顛末を尋ねた。


 その間に、リリベルと黒衣(こくえ)の魔女の戦いを見ていたが、俺が理解できる光景ではなかった。


『お主よりも彼奴(きゃつ)に賭けた方が、あの婆を破る確率が高いと思ったまでじゃ』

『トゥット様、予定された道から外れることは混乱します』

『すまんのう。しかし、考えてみい。此奴は優柔不断じゃぞ。最後にあの小娘を(あや)めることができるか?』

『賢者に同意見だ』


 トゥットとチルの会話にラザーニャも加勢した。

 話を聞くと、どうやらトゥットとラザーニャは、この大事な状況でリリベルに鞍替えしたようだ。彼女に、黒衣の魔女を殺させようと魔力を分け与えたことが分かった。


『ヒューゴ様は、リリベル様には持っていない力を持っています』


 3人が頭の中で言い争う中、ダリアはリリベルに殺されたことを未だに信じられず、ぶつぶつと独り言を呟いていた。

 相当にショックだったらしい。

 その様子を見たセシルたちが、ここぞとばかりに彼女に口撃する。


『いつまでも彼女が子どものままだと思ったら大間違いよ……』

『しつこい親は嫌われるぞ』




 転じてリリベルたちの戦いに意識を移す。


 2人は点滅するかの如く瞬間移動を行いながら、謎の爆発の応酬を繰り広げていた。

 リリベルも黒衣の魔女も、詠唱もしなければ魔法陣も描かない。

 一瞬だけ何らかの現象や物体が生み出されたりするが、相手がすぐに相殺しているのか、俺が目で認識する前に生み出されたものが爆発を起こしていた。


 爆発音が煩わしいのか、赤ん坊は終始しかめっ面である。

 この子を守るために激しい動きの中に晒してしまったし、今もこの五月蝿い音を聴かせてしまっているが、まだ泣き声1つあげていない。

 我慢しているのか、泣く元気がないのか、もしかして身体が弱まっているのか。まだ性別も分からないこの赤子が心配で堪らなかった。


「ヒューゴ君、君の願いを叶えるためには、1度この世界を作り直す必要があるのだよ」


「作り直すためには、元に戻すためには、神様にならなければならいのさ」


「神様になるためには、この世界全ての魔力を手に入れなければならい」


「分かってくれるね? 君の『大切な者を守りたい』という使命は、神様になることとは正反対の行いになる」


「だから、君の心を守るために、私が君の代わりに神様になってあげよう」


 リリベルは目を合わせることなく淡々と言い放った。

 彼女の真意を理解できたところで、今の俺にできることは何もなかった。

 口を挟もうにも、俺の心が整理できていない。


 全知となったリリベルにとっては、それが当たり前のことかのように理解できるのだろう。

 だが、俺からしてみれば、いきなり神になると言われて混乱を隠せない。


 ただ、黒衣の魔女を倒し、守りたかった者を守る。それだけしか考えていなかったのだから。


「最後に殺すのはヒューゴ君って決めているから、少し待っていてね」


 彼女の頭上に10を超える光の輪が花開く。まるで天の使いのように神々しい。

 その光の輪がどういう意味を持つのかは分からなかったが、黒衣の魔女との戦いに利用されていることだけは分かった。


 真っ白な空間はどれ程の衝撃を受けようと、一切色を変えることはなく、同じ空間を保ち続けている。


 その白の中をリリベルと黒衣の魔女は、縦横無尽に行き交った。

 筋力強化の魔法を自身に詠唱したとしても、2人の動きに付いていくとは無理だろう。それ程2人は滅茶苦茶な動きをしている。




『ヒューゴ、迷っているの……?』


 質問をかけてきたのはセシルだが、ほぼ全員が同じような心境で語りかけてきていることは何となく分かった。


 素直に迷っていると自問自答した。


 何が正解なのか。

 どうすれば最良の道を選択できるのか。


『いやいや、ヒューゴ。忘れてるぜ?』


 スーヴェリアが大きく横に避けた口の端を吊り上げた。


試す神(ペラスモス)はヒューゴに絶対に後悔する試練を与えた。そうだろう?』


 俺が亡国ネテレロで、皆と違って試す神(ペラスモス)から後悔を与えられたことを、彼は知っていた。

 だが、よく考えてみれば、俺の頭の中にいるなら秘密を知ってしまっても不思議ではない。


『そこの娘にも言われたようだが、後悔することが決まっているのなら、いっそのこと開き直ったらどうか』


 ヴラスタリがスーヴェリアに続いて言った。立派な髭を揺らしながら、努めて優しい口調であった。


『ヒューゴ、お前はまだ戦う手段がある、らしいぞ』


 リリフラメルは意味ありげなことを言いつつ、隣のダリアの顔に何度も目線を寄せた。

 どうやら、皆の言葉に何となく乗っているだけのようだ。

 ダリアは彼女の視線に応えて、うんと頷いた後、言葉を紡いだ。


『魔女の呪いだ』


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