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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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影の死

 3人の魔女の始祖を倒した後、山に戦いの音が響くことはなくなった。

 その静けさで敵も味方もほぼ死んだのだと悟る。残っているのは、館の明かりを灯す者たちだけだろう。


 戦いが始まってからずっと気分は最悪だ。

 見知った者が死ぬ度に、守ろうとした者が死ぬ度に、底につくことなく気分が下降し続けた。

 それでも、俺は魂を取り込むために、死体を食う行為を止めることはしなかった。


「風邪を引いてしまうよ」

「魂を取りこぼしてしまうより、マシだ」

「君は真面目だね」


 魂を取り込むための魔法を発動するためには、リリベルの助けが必要不可欠だった。

 日も暮れた山の寒さに、身体が凍えて勝手に震えるぐらいだったから、さすがにリリベルには服を着せてやった。

 勿論、服は死体から剥ぎ取った物だ。


「君は服を着ないのかい?」

「着る暇も惜しい」

「君は真面目だね」




 取りこぼしがないようにと、注意深く城やその周辺を見回りながら魂を取り込んでいったが、恐らく取りこぼしはあるのだろう。

 俺自身が俺の行為に信用を持つことができないから、そう思ってしまうのも無理はない。


 その度に、頭の中で数え切れない声が俺を慰めるのだ。

 俺に殺されたも同然の者たちから、慰めの言葉を受けるなんて、余りに滑稽(こっけい)だろう。滑稽過ぎて涙も笑いも出て来ない。




 小さな国の外周を回ってから、城内に入って死体をひと通り探して、漸く俺とリリベルは館に向かうことになった。


 山の半分程は極彩衣(ごくだみえ)の魔女の手によって点にされたおかげで、砂山を両手で側面からこそぎ取った時のような歪な形になってしまっている。

 そこからもう半分程がリリフラメルの炎によって蒸発させられたため、ポートラスという国の痕跡は最早、本城である館しか残されていない。


『私を怒らせたヒューゴが悪い。だから全員燃やしてしまった』




 険しい崖を登って漸く館に辿り着いた頃には、とっくに太陽は上に昇りきっていた。


 中庭は植物が見えなくなる程の死体で埋め尽くされていた。

 どれも着たままの綺麗な姿をしていて、血の一滴も流れているようには見えなかった。それでも肌は青ざめていて指先をピクリとも動かす気配はなく、死体であるということだけは確かに分かった。


「そろそろお腹一杯ではないかい?」


 リリベルの言う通り、食欲はないし腹は膨れている。

 だが、皆を助けない限りは、俺1人の食欲など何の制約にもならない。


「この死体と変わらない顔色をしているね」


 彼女はふふんと鼻を鳴らして俺の前髪を掻き分けるようにして撫でてきた。それが何の意図があっての行為なのかを推測する余力は残されていなかった。

 ただ、彼女の手つきが何となく心地良いということだけは分かった。


 俺は彼女に懇願して、魂を取り込むために力を借りた。

 そして、魔法陣と詠唱を2人で行いながら、中庭を埋める死体を(かど)の端から食べ始めた。


 その後の記憶は判然とせず、気付いた時には身体はベッドの上で横になっていた。




 ◆◆◆




「両腕とも魔力管は死滅していますね。通常の方法で魔法を詠唱することは不可能でしょう」

「困ったね」

「リリベル様はもう少し我慢を覚えるべきでしたね」

「仕方ないよ、ヒューゴ君のためだもの」


 最後のお城に残っていたのは、チルとラルルカ、死にかけの赤衣(せきえ)の魔女と賢者のお爺さんだった。あ、後は赤ん坊も生きているね。それ以外は皆、死んだみたい。

 館の中にもたくさん死体はいた。死体と呼ぶのも難しい大きな肉塊ばかりであったけれどね。

 肉塊になった原因は黒衣(こくえ)の魔女の病が蔓延したから。黒衣の魔女の魔法に対抗する術を持たない人たちは1人残らず、病に冒されてしまった。

 殺したのはチルだ。


「ヒューゴ様は、全てを(しょく)したのでしょうか?」

「食べたよ。チル君が殺した肉塊も全部ね」

「仕方ありません」

「中庭の死体も君の仕業かな?」

「いいえ。アレ等は魔女の始祖モクの仕業ですよ」


 どうやら私の知らない内に、モクによってこの辺り一帯にある全ての心臓の動きを停止させられたみたい。

 ラルルカと赤ちゃんは、影を伝って予め魔法の効果範囲から逃れていたので、助かったみたい。

 リリフラメル君がモクごと他の魔女たちを燃やしたけれど、どうやら彼女たちは焼殺されなかったとしても、あの時点でモクによって皆殺されていたのだろうね。

 このことをヒューゴ君に伝えたら、どんな反応をするかな。興味深いね。



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