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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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炎の死9

 剣の具現化は剣としての用途を成さない。

 具現化するなら、切って攻撃できるものよりも、重さで叩きつけて攻撃する鈍器の方が良いだろう。


 ただし、想像したものと異なるものが具現化されると、今度はその形を維持するために、異形の状態を想像しなければならない。


 すると今度は、更に想像したものと異なるものが具現化されてしまう。


 何を考えても上手くいかないのだ。


 やはりこの身1つで殴るしかない。


 それともう1つ、気になっていることがある。


 後ろで起きた空間の歪みが今も起きたままだ。

 魔女たちはとっくに攻撃を止めていて、新たにモクに狙いを定めて攻撃しているのに、まだ現象を保っている。勝手に街を破壊して暴走しているように思えた。


『最早、誰にも制御できない魔力の塊となってしまっているのではないか』

『クレオツァラの言うとおりだな』

錆衣(しょうえ)の魔女が何とかしてくれるでしょ……』




 だが、肝心の錆衣の魔女は攻撃に回らず、ずっと俺を見つめている。

 にやにやと笑って、俺の心の中とその中にいる者たちの思惑を見え透くようだ。


 まさかとは思うが、あの現象をわざとそのままにしているのではないだろうか。


『ヒューゴ、砂漠の国で錆衣の魔女の気に触ることでもしたんじゃないの……?』


 まさか。少しばかりの皮肉は言ったかもしれないが、殴ったりはしていないはずだ。


『皮肉で相手の気分を害するとは考えていないと……』




 リリベルに関することでチルと話をしていたのだから、皮肉の1つぐらい出てしまうのは仕方がない。




 モクとそれ以外の魔女たちの魔法の嵐は壮観だった。

 嵐の中心地で、たった1人で何百人もの魔女と渡り合うモクは、はっきり言って化け物だ。


『その化け物に身1つで挑もうとする人間も十分化け物であろう』


 ゴブリンのメルクリウスが、大きな目を細めて呆れながら言った。


 まともな具現化ができなくなった俺は、鎧もなくこの身だけで魔女たちの魔法を直に受けている。

 おかげで久し振りに死を積み重ねることができた。死んだかどうかも認知できないくらい程の速度で死んでいる。


 砂衣(さえ)の魔女の時間とモクの時間を操る魔法がぶつかり合って、魔法や俺自身の動きが加速したり緩やかになったり、捻れたりする。


 その嵐の真ん中にモクはいた。


「怖い! 心臓が破裂しそうな程、ドキドキしているんだけれど!」


 俺の顔を見るなり、奴はそう言った。


「魔女の祖先にしては、お前だけは威厳を感じられないな!」

「皆さんがおかしいんです! 普通、自分が死ぬかもしれない状況になったら恐怖が来るでしょう!?」

「確かに! 初めて魔女の中で気が合いそうな奴に出会えた気がするぞ!」


 即死と活性の繰り返しの中でも話が途切れずに、モクを認識し続けられるのは、この特異な状況のおかげだろう。


「しかし、ヒューゴクンさん!私を殺すなら熱が必要だと言ったはずです!」

「お前を殺す炎なら後ろにいる! 俺は、お前の動きを止めるために来たんだ!」


 姿だけ普通の町娘に向かってひたすら突進を続けた。

 俺が縦横無尽に魔法を食らい続けているのとは対照的に、モクの身体は傷1つない。時間を停止する魔法のおかげで、あらゆる現象が奴に触れるすぐ手前で停止してしまうのだ。


「腕を掴んで止めるつもりですか!? そんなこと、不可能です! ヒューゴクンさんの手は私に触れる前に停止します!」

「本当にお前の言うとおりなのか確かめてやる!」


 氷のつぶてや雷の飛来、毒沼の生成や形容し難い見たことのない魔法など、様々な魔法による色が飛び交う中で、最も目立つ色は青色だった。

 魔法の嵐の中心部には青い炎が常に渦巻き続けていた。リリフラメルの炎だ。


 しきりに青い炎はモクを飲み込もうとしているが、それでも平気ということは、奴を殺す程の熱を持っていないということだ。

 俺が知る中で最も熱い魔法を操るリリフラメルのそれが効かないという状況は、割と絶望的だ。


『もっと彼女を怒らせないと……』


 セシルの提案を飲みたくはなかった。叶うならば、俺の力でどうにかしたかった。

 リリフラメルを怒らせれば、彼女は怒りに含まれた呪いの効果により、大量の魔力を生み出し、更に強力な火焔を生み出すことができる。

 その代償として怒りで我を忘れてしまうと、自ら出した火焔で自らを焼くことになる。

 だから、リリフラメルにこれ以上怒りを覚えて欲しくないと思っていた。


 だが、最早このままの状況ではどうにもならない。




 無理矢理に具現化してみた鈍器のような物をモクに振り下ろしてみる。

 しかし、彼女の頭にぶつかるほんの僅か寸前の所で、強制的に振り下ろす動作を停止させられ、すっぽ抜けてしまう。モクの頭の上に鈍器のような物が不自然に浮いたままになる。


 間もなく想像を保つことができなくなった鈍器は、崩れ去っていく。その様子を見て決断せざるを得ないと知る。


 チルか赤衣の魔女ならこの状況を打開してくれるかもしれないが、2人に何かあったのか、モクに有効打を与える様子はない。


 どんなに考え直してみても、リリフラメルしか残っていない。




 俺は遂に叫んでしまった。

 また後悔すると知って、彼女の怒りを呼び起こす言葉を叫んでしまった。


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