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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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炎の死5

 極彩衣(ごくだみえ)の魔女の攻撃を躱した後、リリベルの両脇を持って立ち上がらせるが、彼女は俺を無言で睨んでいた。


 無理矢理に地面に押し倒したことで、彼女に怪我をさせてしまったのかもしれない。


「すまない。怪我をさせてしまった……よな?」

「これは家庭内暴力だよ」


 リリベルは舌を切ったと訴えてきた。


 彼女の怒りを真摯に受け止める思いは勿論あるが、今はまず古き魔女たちを倒す方法を知る方が先決だ。

 彼女は俺に対して怒りを覚えたとしても、理不尽な暴力行為には及ばない。代わりに彼女が作る料理の味をわざと落とされる。


 その覚悟を胸にしまい、しかめっ面のままの彼女を抱き寄せて、改めてモクにモクの倒し方を乞う。




「では、簡潔に。私の防御手段は時間の操作による全現象の停止です。弱点は熱。目一杯の熱を私にくれれば、私は死にます」

「待て待て、話が早い」

「では次、アルカレミアの殺し方。彼女の常套(じょうとう)手段は、魔力量の強制減衰」

「聞いてないな……」

「聞き返す時間はないと思うけれど」


 魔力の質と量が、魔法の打ち合いを制する鍵となる。

 アルカレミアは、魔力量において自身が他より優位に立つために、あらゆる策を講じている。

 彼女に張り巡られている防御魔法も策の1つで、分厚い防護壁で相手の魔力を変換して威力を削ぎ、自分の物にする能力を有している。


 無理矢理に魔力の量や質を捻じ曲げて、奴の右に出る者がいないような状況を作り上げることが、奴の本懐なのだ。

 だから、奴は右衣(うえ)の魔女と呼ばれていると、モクは言った。


「魔力を解析されていないこと、つまり初撃で殺すことが最も有効な手段。貴方たちは、既に魔力を解析されて、ぼろぼろだから、残された手段は1つしかない」

「右衣の魔女の魔力変換が間に合わない程の魔法を、皆で放つということだね?」

「そうそう」

「ふふん。やっぱり私の思った通りだ」




 モクは喋りながら、その辺に転がっている石を吟味し始める。

 自身の心に逆らう行動の1つ、魔法陣を描くための道具探しが始まったのだと察する。


「マイグレインは、アルカレミアとは真逆の性質を持っていると言えるかもしれない」


 後ろでは赤衣(せきえ)の魔女と右衣の魔女が戦っている音と熱を感じる。

 その中でも、魔法陣を描く適切な石を見つけたモクの、地面に描く音と振動が足にはっきりと伝わって聞こえてきた。


「彼女は魔力量を極限の最小単位にまで絞って、点として撃ち出しています。余りにも小さすぎて、魔力感知はできないし、あらゆる物に刺さって通り抜けてしまう」


 極彩衣の魔女は、魔力の消費を抑えた研究をしていたらしく、あらゆる属性の魔法を最少の魔力で詠唱できる技を持っている。

 その究極の形が、点描のように極小点の魔力を針のように刺し貫く魔法だ。


 ただ、針1本では相手を殺すことはできない。相手に指1本でも反撃を行わせずに完全に封じ込めるには、莫大な量の点を撃つ必要がある。

 しかし、莫大な量の点を撃つということは、結局そこに膨大な量の極彩衣の魔女の魔力を漂わせることになってしまう。

 その対策として、点に込められた魔力1つ1つは、わざと魔力の質を変化させられた状態で放出されている。最小点であれば、魔力の質は最早意味などないため、質の変化は魔法に影響を与えないのだろう。


 彼女の魔力を色で見える者は極彩色に見えるらしい。だから極彩衣の魔女と呼ばれているのだとか。




 だが、不死の俺とリリベルにとって重要な話はそこにはない。

 問題なのは、点描の魔法に不死の呪いの効力を跳ね返す、魔力管破壊の効果があることだ。


 しかし、その質問を投げかけた時に反応したのは、モクではなくリリベルだった。


「私のせいかもしれない」


 胸元にいる、家庭内暴力に対する怒りの圧を発したままのリリベルが呟いた。

 気後(きおく)れはありつつ彼女に説明を求めようとしたが、後ろから気配を感じて言葉を止めざるを得なかった。




「モク、私の興味を削ぐ真似をして一体何のつもりだよ」

「マイグレイン、久し振り」

「久し振り。って違う、違う、違う」


 マイグレインが教会だった場所からゆっくりと此方に向かって来た。具現化された俺が奴と戦っていたはずだが、奴を追いかける俺の姿はなかった。そこで俺は奴に負けたのだと知る。

 前のモクと後ろのマイグレインを交互に見て、2人の行動を見守る。


 ただ話しているマイグレイン。魔法陣を描いているモク。


 先に攻撃するならどちらの方が良いか。


『極彩衣の魔女って奴の方が良いんじゃないか?』

『おん、そうだな』


 だが、まだ極彩衣の魔女の殺し方を聞いてはいない。聞く前に話が途切らされてしまった。


「モク。それで、極彩衣の魔女の殺し方は?」

「ヒューゴ、ヒューゴ、ヒューゴ。私の期待を奪ってくれるなよ」

「お前の期待など知ったことではない! さあ、モク! 早く教えてくれないか!」

知る神(ケセロ)に聞いた方が早いんじゃない……? 既死者たちの仮面(デスマスク)と違って、今は本を読む時間があるのだし……』


 頭の中にいるセシル以外の全員が一斉に「あ」と馬鹿みたいな声を上げる。

 セシルがいて良かった。




「ヒューゴ!!」




 まだまだ明るい空が更に明るくなり、熱を感じるようになる。

 2人で見上げると巨大な炎の塊が凄まじい速度で降り注いで来た。


 地面の石を巻き上げながら、モクの横に着地すると、彼女は怒り混じりの声を俺に浴びせた。


「もう我慢できない!! 黙って見ていたが、イライラして仕方がない! 腹が立つ!!」


 青い髪の毛先が発火しているリリフラメルが、辿り着くなりそう言ったのだ。

 自らの身体を発火させる程怒っているのに、彼女は正気を保ったままだったことが、彼女の成長を感じさせた。

 嬉しかった。

 だから、リリベルだけでなく彼女にもこの戦いの場から離れて欲しかった。


噴火(ヴァルカン)!!』


 しかし、地面から噴き上がる炎と噴石は、俺の静止の声を彼女に届けさせなかった。


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