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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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炎の死3

「不死を見るのは生まれて初めてだ」


 俺を殺した実感を感じなかった極彩衣(ごくだみえ)の魔女が頭を傾げた。

 だが、不死の俺に対して驚く様子は見せなかった。不死だろうと倒せるという自信からくるものだろうか。


『ヒューゴ……城壁が壊れてるわ……』


 分かっている。分かっている……。


 想像はしたくないが、現実逃避をしても仕方がない。

 俺の背より後ろの全ては何もかもが消し飛ばされている。そちら側の全部が死んだ。


 無防備になった魔法防護壁に既死者たちの仮面(デスマスク)が流れ込んで来るだろう。

 奴等を食い止めるためには、もっと俺が必要だ。もっと俺を具現化して、城内の皆を守らなければならない。




 極彩衣の魔女は、地面に描かれた魔法陣の上に立ち、詠唱を始めた。


『点を結ぶ。線にはならず。砂へと帰す』


 右衣(うえ)の魔女に漏れず、奴も長ったらしい詠唱だった。

 だから、まだ時間はある。


 リリベルを守っていた俺が立ち上がり、黒剣を手に取り、極彩衣の魔女に向かって行った。




「愚かです、ヒューゴ。私の存在を忘れて油断しています」

「忘れてなどいるものか」


 赤衣(せきえ)の魔女が横から飛びかかって、炎を殴りつける。

 そこに何もない右衣の魔女に対して、炎の風が吹き荒ぶことで姿を確認することができた。奴の魔力が人の形となって表れているのだ。


赤花(しゃっか)


 炎の華が開き、右衣の魔女を再び飲み込む。




 灼熱の炎がリリベルに及ばないように、慌てて彼女の元に寄り、抱き上げて守る。


 リリベルを抱きしめた時に丁度、極彩衣の魔女に具現化された俺が剣を浴びせる様子が目に入る。

 袈裟斬りにされた極彩衣の魔女の身体が揺らぐが、それでも奴の詠唱が止まることはなかった。傷を負っていない。血すらも噴き上げない。


「魔法陣を破壊しろ!」


 具現化された俺に指示する。

 本体が止まらないなら、魔法を形にするための元を止めるしかない。


 具現化された俺が極彩衣の魔女の足元に狙いを変える。


『閉塞せず。通貫す』


 剣が魔法陣が描かれた地面を削り切る。

 これで魔法の詠唱はできなくなる。


『ヒューゴ……! 防御して……!』


 セシルが突如叫び、ほぼ無意識に俺は盾を具現化した。




『攻撃魔法、絶対貫通(ぜったいかんつう)




 詠唱した呪文が耳に入った時点で、盾の意味がないことを知る。


『ごめん……』


 リリベルを押し倒して、盾を極彩衣の魔女に投げつける。


 一瞬だけ見えた。

 投げつけた盾に細かな穴が開く。穴を開けたものが何だったのかは目に見えない。後になって穴が開いたということだけが分かっただけなのだ。

 だが、それは一瞬だ。穴が開きまくると、それは穴にはならなくなる。盾の形が一気に崩壊して、物体の情報を何1つ残さずに消える。


 そして、俺の身体が点になる。


 身体を構成する全てが、最小単位の部品に分解されて粉々に砕け散り、そして死を迎える。




 だが、それだけでは俺を殺すことはできない。

 極彩衣の魔女がどんなに圧倒的な制圧力を持つ魔法を使おうとも、俺には無意味だ。


 だが、なんだか違和感がある。


 その違和感にいち早く気付いてくれたのは、セシルだった。


『ヒューゴ、魔力管が切れたままになっている……』

「何を言って……」


 そう言われて初めて、具現化が上手くいかないことに気付いた。


「ヒューゴ、ヒューゴ、ヒューゴ。私の期待を奪ってくれるなよ」

「奪ったつもりはない」


 具現化された俺が極彩衣の魔女に向かってもう1度攻撃を与えた。


「俺のことを忘れてもらっては困る」

「お前もヒューゴか、ヒューゴ」


 確かに俺の目の前で奴は斬られたはずなのに、奴は斬られた結果を受けつけないかのように傷を負っていなかった。




「ヒューゴ君?」

「あ」


 リリベルを守るために咄嗟に押し倒したことを忘れていた。

 彼女は極彩衣の魔女の攻撃を避けることはできたが、俺が押してしまったばかりに床に鼻を当ててしまったらしく、鼻血を垂らしていた。


 目を閉じて笑っているが、絶対に怒っている。殴ってこないか心配だ。




 リリベルは鼻血を垂らしながらも、俺の胸元に駆け寄ってから背を向けて寄りかかって来る。

 そして、2人で極彩衣の魔女に相対する形になる。


 どうやら俺に対して、とりあえずは怒りを抑えてくれるようだ。


 リリベルは俺と共に戦おうとしているのだろうが、それは避けたかった。俺の盾で彼女を守ることができないと分かった今、リリベルをこの場にいさせるべきではない。

 後ろでは変わらずに赤衣の魔女と右衣の魔女が戦っている。気軽に俺の身体の向きを変えることはできなかった。


「邪魔だ。私は黄衣(おうえ)の魔女を貫通させる訳にはいかない。黄衣の魔女には器になってもらう必要がある」

「ふふん、だからこそ私は彼の前に立っているのだよ」


 リリベルはこの危機的な状況にあっても、いつもの調子を崩さなかった。


「私のことを、全てを貫通させるしか能がないと思ってはいないか?」

「思っていないさ。古い魔女ならきっと、私の知らないすごい魔法を見せてくれるって信じているよ」

『挑発しないでよ……』

「挑発するな……」


 その間にリリベルが左手を後ろに回して、俺の腹当たりに手を当てた。

 それは彼女が普段しない行動である。だからきっと何か意味があると思った。


 俺の推察に頭の中の皆で作戦会議が始まる。


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