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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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炎の死2

 右衣(みぎえ)の魔女の防護壁に穴が開いた。

 その穴に我先とヒューゴ君の雷が勢い良く入り込んでいく。

 私の真似をしたヒューゴ君の雷は、不思議なことに目で追うことができたから、良く分かったよ。


 右衣の魔女が何の魔法を彼に与えているのか分からないけれど、それのお陰で防護壁を中途半端に破壊させなかった。

 馬鹿だね。


 ヒューゴ君の雷の効果を半減することが目的だったのだろうけれど、おかげで防護壁の中に雷が残ってしまった。


 内側から右衣の魔女を破壊して、吸収と瓦解を繰り返す。




 防護壁が内側から1枚ずつ丁寧に剥ぎ取られていく様は、ヒューゴ君の性格そのままみたい。


「リリベル」


 私を抱えているヒューゴ君が呼びかけてきたので、顔を上げて彼を見てみたら、口から血が止めどなく溢れていた。


 魔力で生み出した彼にしては、随分と現実的に見える。


「誰に攻撃されたのかな?」

「後ろからやられた」


 右衣の魔女とは別に、私たちを狙う者がいる。彼の報告がそう伝えていた。


 そして彼の報告は、私が彼の後ろにいる敵を不意打ちできる機会があることを意味している。




瞬雷(しゅんらい)




 くるりと反転してヒューゴ君の肩に乗って、視界に捉えた者に雷を放った。


 手で返されてしまった。


「あいつも、こいつも、そいつも。一体何人殺せば良いのか」


 極彩(ごくだみ)色のマント。毒々しくて、華々しくて、目障りなひらひらの布は、一瞬で視界いっぱいに広がった。


 ヒューゴ君が私を情熱的に押し倒してくれなかったら私たちは今頃、何もここに残せなかったでしょう。




 ◆◆◆




 黒い雷を想像から消しても、まだ右衣の魔女はそこにいた。


 身体が全て消え去ろうと、その位置に必ず残っていた。


「醜悪な未来の子ども」

「醜悪な未来の子どもではない。俺はヒューゴだ」

「ヒューゴ。ヒューゴも、黄衣(おうえ)の魔女と同じです。愚かにも程があります」


 売り言葉に買い言葉か、声が勝手に出てしまう。

 原因は頭の中の皆が、手を振り上げて一斉に怒りの声を上げたからだ。


『やっちまえ! そんな魔女!』

『喋らなくなるまで攻撃しろ!』


 彼等の声に呼応するかのように、俺自身の口からも右衣の魔女を挑発する言葉が出てしまう。


「愚かなんかではない」

「いいえ、愚かです。詠唱もせず、魔法陣も作らない。積み木遊びでもするかのように、魔力をこねて崩して遊ばせる。嘆かわしいことです」


 これが俺の精一杯で、必死の戦い方だ。誰に愚かと言われようと関係はない。




 右衣の魔女の魔力の残滓を、その最後まで俺の糧にしてやる。


 魔力を変換して己のものにできる奴は、右衣の魔女だけではないのだと、知らしめてやる。


 掌を前に突き出して、そこに残っているであろう奴の魔力を想像して、吸収する。

 魔力の色が見えていて、独特な香りを感じるようになったのは、魔力感知の能力がここにきて成長を遂げたからだろう。絶対に頭の中の魂たちのお陰であることは、明らかだ。


 魂を取り込めば取り込む程、五感が研ぎ澄まされていく。今までできなかった視覚や嗅覚での魔力感知が、できるようになっている。

 驕り昂ってしまいそうだ。


 増長しなかったのは、この状態に至って尚、右衣の魔女を圧倒できる実力差を実感できないことと、奴の口から出た諦めのような印象的な言葉が耳に入ったからだった。


「しかし、心は込もっています。魔法に対する情熱とは異なる念が感じられます。故に、惜しいです」




 動揺せざるを得なかった。

 急激に優しげな声色に変化したことは、相手に敵としての認識を歪ませる。もしかしたら、右衣の魔女は悪い奴ではないのではないかと、余計な思考を巡らせようとしてしまう。


 右衣の魔女のそのひと言を良く噛んで理解する前に、背中から衝撃を受ける。




 衝撃という割には、痛みは何1つ感じなかった。




 自身を含めた3人の俺も、教会も、その向こうの建物も、更に向こう側の城壁も、そこにいた生物も全て、砂のように分解されてしまった。


 即死だった。


 だから、意識を取り戻した後はすぐに振り返ってリリベルの方を確認した。

 彼女を守っているはずの俺が、彼女を傷付けさせないように行動していると信じているが、それでも彼女の身に何か起きていないか確認せずにはいられなかった。




 良かった。

 リリベルは平気だ。俺に守られている。


 平気だが、リリベルの向こうにいる奴は誰だ。


「アルカレミア、若造に遅れを取るとは情けないな」

「いいえ、極彩衣の魔女。未来の子どもたちは愚かですが、決して弱くはありません」

「アルカレミアがそこまで言うのか。興味が湧いてきた」


 1つの色では表現のできないあらゆる色のマントを羽織る魔女がそこにいた。

 極彩衣の魔女と呼ばれる魔女は、俺に視線を合わせ、目を輝かせて言った。


「私は極彩衣の魔女、マイグレイン」

「ヒューゴだ」


 自己紹介が終わった途端、俺は身体中に穴を開けられた。


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