炎の死
1人は剣で、もう1人は具現化した物体で、俺はリリベルから奪い取った魔力をそっくりそのまま『雷歌』という雷に変えて、同時に右衣の魔女に攻撃する。
魔法を詠唱した訳ではない。
ただ、リリベルが放つ『雷歌』と同じものが出せたら良いなと思って、それを想像して生み出した。
全てを吸い込み、分離させ塵に変えて、そして無にする。
歌声のような落雷音だけが周囲に響き渡るように、そういう黒い玉だという想像も含めた。
彼女の魔法とは、音が出る原理も全てを無にする過程も、似て非なるものものだが、それでも彼女の魔法と同じであるように願って、丁寧に想像した。
俺がどれだけ彼女と彼女の魔法を愛しているのかの愛情表現だ。言葉で伝えずに察してもらう手法は好みではないが、ほんの少しでも伝わっくれたら嬉しいことに変わりはない。
◆◆◆
私の魔力を奪い取ったヒューゴ君のことを、酷いと思った。
思ったけれど……。
ああ、顔が。
顔が熱いよ、馬鹿。
◆◆◆
右衣の魔女の防護壁が割れる。
割れたそばから修復が始まる。そこに具現化された俺が剣を刺し捩じ込む。
剣の形が先端から歪み始めて元の魔力に変わろうとする。
変わろうとした先から魔力は、俺の方に戻らずに右衣の魔女の防護壁に吸い取られるように、形を変えていた。
塞いではならない。
防護壁が直る前に、剣を差し込んだ場所に黒い雷を手で押し込む。
具現化された俺も、差し込んだ剣も、上から押し潰そうとする重量物も、右衣の魔女の防護壁も、皆等しく黒い雷に飲み込まれていく。
魔力の塊を押し込む俺の気合いの込もった声も、右衣の魔女の詠唱する声も、聞こえない。
上にいる俺は更に重量物を具現化して、圧力を与える。
防護壁が上からひびが入って、更に黒い雷が進んでいった。
そして、防護壁の終わりが見える。
右衣の魔女の魔法陣が光る。
奴の口が動く。
全てを巻き込む黒い雷が、右衣の魔女の魔法陣から出た青い光によって湾曲される。
一体奴が何の魔法を唱えたのか分からない。分からないが、黒い雷が湾曲されるのだけは許せなかった。
リリベルの雷は何ものにも負けない。負けてはならない。負けたくない。
彼女のことに関してだけは、想像力で負けたくなかったから、皆の想像力を掻き集めてこの想像の結果を形にした。
それでもまだ足りない。
黒い雷が捻じ曲げられて、右衣の魔女に届かなくなりそうになる。
その時だ。
細長い雷が背中から飛来して、防護壁を貫いた。
具現化した雷に返事をするように、彼女が雷を放ったのだ。
◆◆◆
やれやれ。
格好良いところを見せてくれるのかと思ったら、これだ。
全く、ヒューゴ君らしいよ。




