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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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人としての死3

「勿体ないことをするね」

(けい)は一体何をしておるか! まさか周囲の被害を憂いて攻撃を控えていたのではあるまいな!」

「駄目なのかい?」

「状況がまだ分からぬか! 卿が黒衣(こくえ)の魔女の手に渡れば、我々の敗北が確定するのだぞ!」

「戦いの最中の仲間割れとは、愚かです」


 ほら、右衣(うえ)の魔女に怒られちゃったよ。


 右衣の魔女は祭壇に足を着けると、すぐに詠唱を始めた。

 赤衣(せきえ)魔女は思い直して、右衣の魔女に炎を纏った剣を振るい始める。

 けれど、彼女が右衣の魔女の防護壁に炎を当てるたびに、彼女の魔法の効力は落ちていくのだろうね。


 右衣の魔女を1人で倒すのなら、初撃を全力で、彼女が想定する魔力を大きく超える魔力量で与えなければならない。


 むしろ、1人でない方が彼女を倒すことが簡単かもしれない。

 全員で、一斉に、全力で攻撃すれば、彼女の防護壁はあらゆる魔力を解析して、防御して、修復しようとする。膨大な魔力を消費させれば、彼女の防護壁も無事ではいられないはずだと思う。




 赤衣の魔女と協力して右衣の魔女を倒すことが、最善なのかな。

 私と赤衣の魔女の相性が良いとは思えないけれど、他に手はないのだから仕方がないね。




 あ。




 ◆◆◆




 頭の中が声だらけで随分とやかましくなった。


 それ程、俺は魂を食った。

 魂を食って、既死者の仮面(デスマスク)を殺して、また魂を食った。




 緑衣(りょくえ)の魔女が森に残した魔力を糧として、俺は俺自身を具現化した。

 1人だけではない。100人以上だ。


 複数の物体を具現化するには、俺1人の想像力では限りがある。以前、多くの兵士を具現化して囮にしてみせようとしたことがあったが、1人1人を独立して動いてもらうためには、見た目も性格も想像しなければならなず、難儀したことがあった。


 だが、今は違う。


 頭の中に多くの魂があるおかげで、彼等が俺の想像に手を添えてくれるのだ。

 想像がこぼれ落ちないようにできるおかげで、俺は同時にあらゆるものを具現化することができるようになった。


 具現化できる数が増えただけではない。


 俺1人では想像できないことを皆が想像してくれるおかげで、具現化できる範囲すら広げてくれた。

 具現化した俺もまた具現化できるようになった。具現化した俺は、俺と同じように不死になった。

 能力だけで言えば、増えた俺は完全な俺であった。


 果たして増えた俺の中身が本当に俺なのかという疑問は残るが、どの俺も目的は1つだから行動を(たが)えることはないだろう。




「リリベル?」

「やあ、ヒューゴ君」




 俺はポートラスに戻った。


 死体がたくさんいた。

 落ちている死体を食べては歩き、食べては歩きを繰り返している内に、燃える教会に辿り着いた。


 リリベルがいた。

 服が血だらけだった。


「ああ、この血は赤子を産んだ時に出てきたものだよ」


 俺はもう1人の俺を具現化して、周辺に散らばった焼死体を食べさせている間に、リリベルのもとへ駆け寄った。


 赤衣の魔女が剣を振るっている相手は、口から2枚の舌が飛び出ている異様な見た目であったが、異様な見た目だからこそ魔女であると思えた。




「アイツは一体誰だ?」

「右衣の魔女アルカレミアだよ。魔女の始祖の1人さ」


 始祖とはこれまたとんでもない奴が出たな。


「おい」


 右衣の魔女の攻撃がリリベルに降りかからないように、リリベルの前に立ち剣を構えると、横から押される。


「俺がリリベルを守る。魂を食うのはお前(おれ)がやってくれ」

「いや、俺が本物の俺なのだが……」

「本物か偽物かはどうでも良い。俺が彼女を守ることができないことが心配なんだ。何て言ったって、彼女を守ろうとしている人間が、よりにもよってお前(おれ)なのだからな」

「いや、それを言ったら俺も――」


 言いかけて止まる。

 なるほど、中身も間違いなく俺だ。リリベルを守りたいという一心は、俺が最も考え求めることだろう。

 そして、俺は俺自身を頼りないと判断した。さすが俺だな。


『馬鹿なことやってないで早く右衣の魔女を倒しなさいよ……』


 セシルが不機嫌なのは、彼女の領域に同居人が増えてしまったためだ。狭い空間で野郎どもがひしめく中で、紅一点の彼女は苛立っていた。

 想像すれば空間の広さなど、どうにでもできるはずなのだが、つい忙しくて忘れてしまっていた。


 悪いがもうしばらく我慢してくれ。


『私も元は一応女だったが、ああ女だったが』


 あ、すまない、エリスロース。




「うわあ、うわあ、うわああぁ!」


「ど、どうしたリリベル!?」

「ど、どうしたリリベル!?」


「ヒューゴ君とヒューゴ君が争ってる!」


 リリベルは両手を頬に当てて、地団駄を踏むように足を何度もバタつかせていた。

 どういう感情なのか分からないでいると、彼女の次の言葉で何となく理解ができた。


「私のことで争ってる! すごい! すごく、良いよ! ヒューゴ君!」


 興奮しすぎて彼女は涎が垂れていたので、拭いてやった。




 そこで具現化した俺と目が合うと、なぜかもう1人の俺は頷いてきた。




 そして、俺はもう1人俺を具現化して、2人の俺にリリベルを任せて、周辺に散らばった助けるべきを助けることにした。

 俺1人でリリベルを守ることが不安だと言うなら、2人の俺で彼女を守れば良い。そうすれば()も納得するだろう。

 非常に不本意であるが、今は俺自身と争っている訳にはいかない。




「未来の……子どもたち……? それにしては中身が醜悪ですね……」


 右衣の魔女とやらが、俺を指してそう言ってきた。

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