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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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血の死3

瞬雷(しゅんらい)

「おいおい!」


 挨拶代わりに雷を放ってみたら、蒼衣(そうえ)の魔女に怒られてしまった。


「あいつら全員、お前を狙っているのだぞ! 居場所を教えてどうする!?」

「あ、目が合ったかも」

「姿がバレても、目が合ったかどうかなど、この距離から分かるものか……」


 そうかな。

 雷を放ってからずっと、彼女から放たれる殺意は私のことを貫きっ放しだよ。


「戦ってみるよ」

「よせよせ。黄衣(おうえ)の魔女では右衣(うえ)の魔女と渡り合えるか分からない。錆衣(しょうえ)の魔女ならまだしもな」


 むむ、私が右衣の魔女に負けるかもしれないってことかな?

 そう言われたら余計に彼女と戦ってみたくなるのが魔女の(さが)というものさ。


「はあ……どうなっても知らないぞ」

「それなら私を止めてごらん。私を止められる魔女を連れて来るとかでも良いよ」

「そうさせてもらうぞ」


 一方的に会話を終わらせずに、蒼衣の魔女にも選べる選択肢を残してあげた。

 ヒューゴ君の言いつけを守る私はきっと彼に褒められるはず。




 避難して来た人たちの群れを掻き分けて、たくさんの兵士や魔女たちに呼び止められても進み続ける。




 向かっている間に、たくさんの魔法が空に向かって放たれた。

 何人もの魔法使いや魔女が張った、国を守る魔法防護壁のおかげで、内側からでも魔法の威力は減衰しているみたい。

 見た目は多少派手だけれども、効き目がありそうになかった。




 右衣の魔女が高い場所に位置しているせいで、投石や弓矢の狙いが上手くつけられずにほとんど機能していない。

 何人かは弓の名手がいるみたいで、正確に右衣の魔女に矢を飛ばすことはできているけれど、彼女の身体に刺さったりはしていない。

 防御されているのかもしれない。




 空を見ながら走って分かったことはそれぐらいかな。




 ここが狭い国で良かったよ。すぐに国を守る城壁の歩廊に到着できた。


「黄衣の魔女!! ここで何をしている!?」


 到着した瞬間に大声で怒鳴られた。

 赤衣(せきえ)の魔女がたくさんの魔女を掻き分けながら、私の所へ突進してきて胸倉を掴んできた。久し振りに彼女のことを見たかもしれない。


 怒っているみたい。


「立派な口髭だね」

「髭はどうでもよいわ! (けい)はただちに城へ引き返せ!!」

「お断りいたします。私は右衣の魔女と戦うよ」

「この奇天烈小娘ぇ……」


 そう言えば彼女は良く私のことを奇天烈小娘と呼んでいたね。

 程々に容姿端麗、頭脳明晰の私を前にして奇天烈とは酷い言い草だ。




 歩廊に溜まる魔女たちは、右衣の魔女にたくさんの魔法を放っていた。空はすごくカラフルで綺麗だった。


 でも、彼女には全く用を為していない。

 弱い魔女ばっかり集まったところで、1人の強い魔女を倒すことはできない。


「赤衣の魔女は、右衣の魔女を倒せるの?」

「当たり前だ。始祖の魔女とはいえ、所詮は現在(いま)の魔法を知らぬ時代遅れの魔女よ。故に、卿は城へ――」

瞬雷(しゅんらい)


 話が長くなりそうだったので、右衣の魔女に雷を落としてみた。

 そうしたら、赤衣の魔女は剣の鞘で私の頭を殴ってきた。


 痛い。


 絶対にコブができていると思う。


 酷いよね。


「話を最後まで聞かぬは、卿の悪癖だと幾度も忠告したはずだぞ」

「まあまあ。彼女はもう私に釘づけみたいだし、城に逃げても意味はないと思うよ」

「屁理屈も卿の悪癖だ……」

「囮になるから、その間に彼女を倒してみせてよ。できないのかな?」

「ぐぬぬ、相変わらず口だけは達者だな……」




 無駄な問答をしている間に、名もない魔女の1人が慌てながら、赤衣の魔女に状況の変化を報告した。


「赤衣の魔女様! 魔法防護壁が破られてしまいました!」

「10枚以上の防護壁が詠唱されているのだ! 1枚ぐらいで狼狽(うろた)えるな!」

「全部です……全部破られました!!」




 赤衣の魔女につられて、私も右衣の魔女の方を見上げる。


 無色透明の魔法防護壁だったけれど、右衣の魔女が手を伸ばしたところだけ幾重にも変色していた。

 硝子が割り破ったみたいに、彼女の近くの防護壁が砕けていく。


 防護壁を詠唱している人たちは必死に修復したのだろうけれど、防護壁が綺麗に元に戻った時には、既に彼女は壁の内側に立っていた。




 そして、彼女は私を睨むんだ。


 皆が、右衣の魔女の信じられない行動を見たせいで、あれだけ詠唱する声で一杯だったのに、しんと黙ってしまった。


 静かになったのなら丁度良い。


 まだ下腹部がじんじんと痛むけれど、我慢して大きく息を吸い込んでから、叫んだ。


「おーい!! 私は黄衣(おうえ)の魔女、リリベル・アスコルトだよ!!」


 現在(いま)の魔女の決闘の合図が、彼女に届くか分からなかったけれど、どうやら想いは伝わったみたいだね。

 右衣の魔女は、まるでそこに階段があるみたいに空中を1段1段と降りて来た。


 それで、彼女はこう言ったんだ。


「右衣の魔女アルカレミアです、よろしくお願いします」


「未来の子どもたちを殺すのは忍びないですが、黒衣(こくえ)の魔女のために一緒に目を閉じましょう」


 多分、死んでくださいって言いたいのかな。

 言っていることが良く分からなかったので、仕方ないから彼女に雷を放った。


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