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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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血の死

 3人目の王は、他の2人と違って軽装に見える。


 そもそも形状からして見たことがない。

 何枚もの長方形の鉄板を太い糸で繋ぎ合わせて、1枚の板かのような作りになっている。それらの板を複数繋ぎ合わせて、1つの鎧に見せている。


 故に他の王と比べて軽装に見えた。

 ただ、他の王と比べて圧倒的に動きやすそうではあった。必要最低限の守るべき部位は守っていて、更に板を繋ぎ合わせたことにより、関節の可動は利く上に速く動くことができる。


 それでも、兜の豪華な装飾と、絶対に戦いには不要なマントが、それを王と思わせることに疑う余地を与えなかった。




「アルマイオ!!」




 アルマイオを斬ったツギハギ鎧の王に攻撃を与えようと思った時には、既に王は退いていた。

 目で追うことが叶わず、どこへ行ったかを確認している間に、俺の身体は上から切り裂かれていた。


 1歩遅れてセシルが、ツギハギ鎧の王は上に飛び上がっていたことを知らせてくれたが、言葉で教えるには王は速すぎた。


 ぼとぼとと地面に何かが零れ落ちる音が聞こえたが、それを確認する暇すらなかった。


 目にも止まらぬ速さで、俺も、アルマイオの兵士たちも、切り刻まれていった。




 ◆◆◆




 私は極めて真面目に赤子を産もうと行動していたつもりなのだけれど、何度もオルラヤ君に頭をはたかれた。余程、私がふざけているように見えたみたい。


 ベッドは血だらけだし、私も血だらけになってしまった。こんな醜態をヒューゴ君に見られなくて本当に良かったと思うよ。




「リリベルさん、本当にヒューゴさんの元へ行くのですか?」

「勿論だよ。ヒューゴ君は皆に城から出ないように言い聞かせて、1人で戦いに赴いているみたいだからね」

「でも、産まれたばかりの赤子は……」

「君に任せるよ」

「いきなり育児放棄って、最低の母親ですね」

「どう接して良いか分からないのだもの」


 赤子についての知識は事前に本で得てある。


 けれど、本の知識だけでは分からないこともある。


 どれぐらいの力の強さで赤子を抱き上げれば良いのか分からない。

 話しかけた方が良いのか分からない。

 餌を与えるにどうすれば乳が出るのか分からない。


 分からないことだらけの点で言えば、ヒューゴ君に似ているね。


 でも、赤子にはヒューゴ君程の興味はない。




 いいや。

 興味がないというのは言い訳かもしれないね。




 恥ずかしいことに、私はこの赤子に対して恐れを抱いているみたい。

 どうしたら良いのか分からないのだもの。恐いに決まっているさ。


 そして、私の中で整理できない恐れを癒やすために、ヒューゴ君に会いたいという気持ちを強めているみたい。彼を頼れば解決するかもしれないって思ったのさ。

 これまた恥ずかしいことに、その考えに至った理由は、稚拙にも私の勘だけれど。




「せめて、名前ぐらい付けて言ったらどうですか」


 オルラヤ君が提案した。


 困った私はラルルカにお願いした。


「あの男とアンタとの子に名前をつけるぐらいなら、殺した方がマシよ」

「そもそも他人に名前を決めさせないでください。後、簡単に殺すなんて口にしないでください」


 私とラルルカの頭がはたかれた。

 ラルルカは、なぜ私が怒られなければならないのかという恨みを込めて、私を睨んできたので、睨み返してあげた。


 そうしたらまたオルラヤ君に怒られてしまったよ。




黒衣(こくえ)の魔女は、リリベル様の力を欲しています。リリベル様が出向いてしまえばどうなるかは、火を見るより明らかです」


 椅子にちょこんと座るチルが、多分私を牽制しようとしているのかな。

 でも、彼女の言うことを聞く気にはならない。


 今の私に言うことを聞かせられるのは、ヒューゴ君かダリアだけだからね。


 だから、私は構わずに着の身着のままでお城を出ることにした。


「そういえば、この子の名前はどうするつもりですか?」

「あ」


 そういえば新しく生まれた子には、名前が必要だったね。


「それって、女の子? 男の子?」

「男の子です。ちなみにですが、ヒューゴパートツーなんて名前はつけないでくださいね」


 なぜ分かった。


「その顔はどうやら、本当にその名前にしようと思ったのですね……」

「まあまあ。ヒューゴ君と相談するよ」




 これ以上赤子のことで考えるのが嫌だったから、逃げるように部屋を出た。


 城中も城内の庭も、たくさんの人で賑わっていた。

 ゴブリンもエルフも人間も混ざっていたし、オークもいた。


 良く、誰も喧嘩せずに大人しくしていられるね。

 ヒューゴ君が皆に言い聞かせたのかな。




「おい!」


 私のことを呼び止めたのはリリフラメルだった。

 ヒューゴ君に髪を切ってもらったみたいで、今日は暑苦しくない髪型をしていた。

 羨ましい。


「そ、その、もう平気なのか? 服は血だらけだけれど……」

「平気さ。お腹はまだ痛いけれど、我慢できない痛みではないからね」

「それなら良いけれど。もしかして、アイツの所に行くのか?」

「うんうん」

「私も――」

「駄目」


 多分、彼女がヒューゴ君について行かずに、ここで私を待っていたということは、彼に同じことを願って断られたのだろうね。


 ヒューゴ君のことだから、戦いで誰かが傷付くのを嫌がって、リリフラメルの願いを断ったのだと思う。


 それなら私はヒューゴ君の意思を汲み取らない訳にはいかない。


「君はここで、皆を守って。敵が来るのは何も城門からではないからね」

「う、ぐぐ……分かったよ」

「良い子」


 彼女の跳ねた髪を撫でるついでに戻してあげた。




 それから私は、ヒューゴ君がかき集めた命たちを見ながら、城門までの道のりを楽しんだ。


 だってこの人たちは、ヒューゴ君のお宝と言っても過言はないのだもの。


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