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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第19章 死守
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王たちの死5

 兵士たちは果敢に仮面たちが控えている方へ、樹木の壁に足を引っ掛けながら俺たちを飛び越えて突撃して行く。


 止めろと叫んでも、彼等は止まらない。


 皆、アルマイオを守るために戦っている。




 アルマイオだけでなく、ポートラスに呼び寄せた皆には城から出ないように言いつけたはずなのに、彼等は出てきてしまった。


 魔女たちとは違って、彼等は世界中のほとんどが死滅していることを知らない。

 流星群の落下は、彼等の住む地域だけでの出来事だと誰もが信じていて、まさか世界が同じ状況になっているとは思ってもいないのだ。


 だからこそなのか、事の重大さを理解してくれなかった。


 生ある者が残り少ないと各国の王や長に説明しても、誰も信じてはくれないのだ。




 故に彼等は軽々しく命を消費する。


 兵士としての使命感よりも、もっと大きな使命感があるはずなのに、彼等は優先しない。




 失った腕を死なずに取り戻すことは、もう困難ではなかった。


 神から授かった知識をもとに、俺が知る中で最速最大効率の治癒魔法を唱えることができる。


 エリスロースやオルラヤの治癒魔法を凌駕できるこの魔法は、恐らくまだ世に出ていない魔法だろう。

 本来ならもっと先の未来で誰かが研究した末にできる魔法を、俺が先取りしている可能性がある。


 何となく、やってはいけない領域に手を出している感覚はあった。

 この裏技にも近い魔法の習得方法に、セシルが危険視することはなかったが、代わりに俺が知識を貪欲に(むさぼ)る様を不安視していた。


 伝承どおりなら、あらゆる知識を吸収した果てに俺が発狂するからだ。




 発狂しようと構わなかった。




 彼等を守れるなら、発狂ぐらい安いものだ。




 腕が治った瞬間から戦いは再開される。


 もう1度王の鎧の中を焼き尽くすために、王の懐に潜り込む。


 王は周囲にいる敵をまとめて薙ぎ払うために、大剣を大きく振り出した。

 俺のような頼りない剣技ではなく、しっかりと芯を掴んだ確実な剣技は、周囲の兵士たちを裁断した。


 軽さを想像して作った鎧は、身体を地に伏せてもすぐに起き上がることを可能にする。

 だれかの血を頭から大量に被り、途轍もない後悔が押し寄せる。




『剣を振り切った今が隙ね……』

「なら、今だ!」


 地を這うように寄ると、王が近付いた俺を認識し、剣を振り戻そうとする。


 思ったよりも速かった。


 だが、剣の振り戻しは止まった。

 止めてくれたのは、アルマイオだった。


 彼の高速移動が振り戻されようとする剣に間に合わせた。


「任せろ!!」


 彼はひと言で俺に全てを伝えた。




 王の懐に潜り込み、鎧に手を当てて、魔力の放出と同時に、鎧の中身を噴火させる。


噴火(ヴァルカン)!』


 鎧の隙間から烈火が噴き上がる。


噴火(ヴァルカン)!!』


 1発の魔法で様子を見ずに、確実に焼き殺すことだけを考えた。


 火炎に焼かれる痛みを知っているからこそ、王の動きが止まらないことが恐ろしかった。


 王は火を受けて尚、俺の首を掴み捻り潰そうとするのだ。




 それでも、声が出る限り詠唱を続けた。


噴火(ヴァルカン)!!!』


 内部で爆発した鎧は、変形して盛り上がっている。

 見るも無惨な形状で、中身は無事ではないはずなのに、まだ動く。




噴火(ヴァルカン)……!!』




 爆発が同時に起きる。


 セシルの詠唱だった。




 2人がかりの詠唱を連続で受けても、まだ動く。




 だが、首を掴む手の力が弱まるのを確かに感じた。


 確実に相手を弱らせられていると分かれば、攻撃の手を緩める訳にはいかなかった。


 兵士が俺を掴む王の手に取りつき、動きを止める姿が目に入る。

 足に取りつく者もいた。




 余計に頭は冴えてくれた。




極光剣(きょっこうけん)!』




 アルマイオが体勢を変えて、光を纏った剣を王に向かって振り下ろす。


 アルマイオが止めていた王の剣は、兵士たちが必死に食い止めていた。




 彼の剣は、王の鎧を縦に切り裂いたのだ。


「ヒューゴ!!」


 裂けた鎧の中に、無理矢理手を突っ込んで、セシルと共に最後の炎を解き放つ。


 鎧が赤らみ、黒煙が噴き上がり、王の動きは完全に静止する。




 ひと息がつけられる。


 そう思った瞬間であった。




 最も油断する瞬間に攻撃を与えるのは、戦いの常套手段である。


 そんなことは分かっている。

 分かっていても、身体を動かすには力が足りなかった。




 3人目の王がアルマイオに切りかかった。切りかかってしまった。




 アルマイオの赤い鎧が割れる瞬間が見えたのと同時に、彼が膝から崩れ落ちる。


 俺も含めて、周囲の兵士たち全員が彼の名を呼び叫ぶ。


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