王たちの死4
放たれた光が森を破壊しないよう、身体全体で光を受け止める。
ひたすら身体前面に魔力を放出し続けて、少しでも光が貫通しないように防御する。
間もなく貫通する。
それでも、身体がぐちゃぐちゃに砕けようとも前に進み、残った部位だけで王の腕に触れる。
僅かに触れただけだった。
だが、その僅かな接触が、森の破壊を食い止めることに繋がった。
光は僅かに上向き、樹木の上部を破壊するに留まらせた。
『ヒューゴが死ぬ度に……視界が一瞬だけ途切れるのは不快ね……』
「我慢しろ! こっちは考えるので手一杯だ!!」
喪失した部位の復元と共に、王の鎧に張り付き、雷を解き放つ。
しかし、鎧を貫通することはできなかった。
王は大剣の刀身で雷撃を受けた流したのだ。
雷が相手を貫通しない光景は素直に驚いた。
『最高品質の魔道具ね……。ヒューゴも最高品質の魔法を放たないと……』
いくらリリベルと同じ力を手に入れていたとしても、使い方次第でリリベルと差は出てしまう。
相手を圧倒できる魔力を、即座に、正確に、集め放つことができるのは、リリベルの方が遥かに上手い。
俺は彼女と同じ力を持っているが、彼女が扱う魔法の高い練度には達していない。
その差が、大剣ごと王を貫くことができないことに繋がってしまうのだ。
状況が膠着しそうだ。
『何でも教えてくれる本に助けを求めたら……?』
「こんな時に本なんか読めるか!」
知る神は懐に収めている。
読めばこの戦いをすぐに終わらせられるだろうが、読んでいる間に、何人を素通りさせることになるだろうか。
素通りさせた者たちが城に辿り着き、どれだけの犠牲を生むのか、怖くて読んでいられなかった。
「伏せろ!」
背中から男の声が張り上がる。
誰かを確認する前に、男の指示に従って身体を落とすと、光が通過するのが地面にできた自分の影の動きで分かった。
凄まじい衝撃音と共に顔を上げると、赤い鎧に身を包む1人の男が王と剣を交えていた。
右手に槍を、左手に剣を持ち、王の一太刀を2本で防いでいた。
ノイ・ツ・タットの現公王、アルマイオだった。
絶対に城から出るなと言いつけたはずなのに、この森までやって来た彼に早速文句でも言ってやりたかった。
だが、それどころではなくなってしまった。
男たちの雄叫びと共に、アルマイオの兵士たちが後に続いて王に立ち向かって行くのだ。
「くそっ!!」
息は整っていなかったが、呼吸などは忘れて、仮面の部隊に突撃する兵士たちを追い越して、王に食らいついた。
一気に辺りは荒ぶる声たちでやかましくなる。
「その大剣は、かの有名なセルヴァ国の武王のものではないか。剣で名を轟かせた古い王と戦えるとは光栄だ!!」
強者との戦いに打ち震えるアルマイオに、文字通り横槍を入れる。
横取りと言われようが、関係はない。
この場にいる誰も死なせたくない。
切り結び合う古い王と公王の横に回って、王の鎧に手をつけて魔法を放つ。
本当は雷を放ちたかったが、味方の目や耳に影響を与えることを恐れて、炎の魔法を詠唱した。
鎧の中に侵入した魔力が一気に炎に変換されて、赤い揺らめきと火花が発生する。
さすがに身体の中が蒸し焼きになれば、王も死ぬだろうと思った。
しかし、王はまだ止まらなかった。
それどころか後ろに控えていた別の王が、俺の腕を鎧ごとぶった切り、魔法の詠唱が止められてしまう。
兜に羊角のような飾りが付いた王は、俺の腕を切り落としたことが攻撃の終わりではないと言わんばかりに、次の攻撃を仕掛けようとした。
その攻撃を防いでくれたのは、クレオツァラであった。
「ヒューゴ殿!! 無事ですかな!」
「クレオツァラまで……」
クレオツァラは身軽に動き回りながら、羊角の王を撹乱し始めた。
この狭い森の道で、乱戦が始まってしまった。




