王たちの死3
1人倒したからと言って息をつくことはできない。
放った雷撃の向こう側から、死体を押し退けて新たな仮面が現れる。
身体は細長くやけに腕の長い仮面が、その腕を使って土を掻くようにやって来るのだ。
『腕長ね……腕を鍛えることしか能がない種族よ……』
足は退化しているのか、身体に不釣り合いな逞しく長い腕に比例して、身体に不釣り合いな足の短さであった。
剣を具現化して、振り下ろされた拳に対抗しようとすると、拳に鋼鉄でも仕込んでいるのか、剣が折れた。
剣が折れたことに驚く隙を突かれて、押し倒されて身動きを封じられてしまう。長い腕のせいで、拳を振り回しても胴体に届かない。
「何だこの腕の硬さは!」
『逆に腕以外は大したことないから、腕以外を狙って……』
「それを、早く、言ってくれ!」
身動きが取れない間に、2人が腕長の背を越えてしまう。
今度はセシルに別の魔法陣を想像してもらって、彼女の合図と共に魔法を詠唱する。
『噴火!』
地面から噴き上がった火炎は、腕長を腹から焼き尽くす。
炎の勢いで腕長が浮き上がり、俺の身体が自由になったところで、先を行く2人に向けて雷を放つ。
2人が指1本足りとも動かせなくなるように、入念に雷を放ち続けた。
次に現れたのはライカンだった。
仮面の形と仮面からはみ出ている毛並みで種族が分かるのは初めてかもしれない。ただ、敵がライカンだからといって何も嬉しいことはない。
ただし、ライカンの性質なのか、飛びかかって首を狙って来ることが多い。その攻撃に合わせて、槍でも具現化して待ち構えれば、自分の勢いによって勝手に殺されてくれる。
そうして、しばらく仮面たちとの戦いは続いた。
剣で腕を斬り落としてから、首を落として殺す。
鎧ごと身体を食い破られて死ぬ。
逃がした仮面を追いかけて、魔法を詠唱しまくって殺す。
棍棒で叩きつけられて頭が砕けて死ぬ。
頭上に重量物を具現化して、落下の勢いを借りて圧殺する。
見えない刃の魔法を放たれて身体を切り刻まれて死ぬ。
相手の口に無理矢理手を突っ込んで、火炎の魔法を詠唱して焼き殺す。
ひたすら殺して殺されてを繰り返して戦いは続いた。
次に現れたのは、見るからに豪奢な造形の青銀色の板金鎧に身を包んだ者が現れた。歩行時の重厚そうな音鳴りと身体の動きは、それだけで威圧感を生ませる。
戦いには不要な装飾の付いた大剣や、動き回るには邪魔になって仕方ないであろう赤いマントは、どう見ても地位のある者の姿である。
『敗戦国の将軍……?』
いや、将軍程の位にしても豪華すぎる。もっと上だろう。ともなれば王か。
姿形はまるで違うが、雰囲気は似たような姿をした者が、後ろにもう2人程控えていた。
先頭の王が剣を切り払う動作をすると、横の樹木たちが真っ二つに裂かれた。ただ、樹木同士がびっしりと絡み合いながら生えて、大きな壁を作り上げているこの特殊な森では、4、5本が横に真っ二つにされたからと言って倒木したりはしない。
それよりも、何気なく剣を振ったという動作だけで、物が真っ二つになったことの方を気にするべきことだろう。
先手必勝を願って、瞬雷を解き放つ。
しかし、雷光が晴れてからも王はそこに立っていた。
大剣を横にして胸の前に掲げている。刀身は光っていた。
『ヒューゴの魔力を吸収されたかもしれないわ……』
「それなら、物理でどうにかするしかない!」
王は更に大剣を大きく掲げ、その体勢から一気に剣を振り下ろした。
剣の勢いと共に、刀身に纏った魔力を放つ攻撃は極光剣と呼ばれる技だろうが、今まで見て来たどの極光剣より、速度も威力も範囲も段違いに強かった。
盾の具現化に間に合っても一瞬で破壊される。
鎧ごと身体を袈裟斬りにされて、身体は分離しているが、放たれた魔力の勢いは止まらず、後ろにあった樹木を切り裂きながら、2つの身体が吹き飛ばされた。
即座に生き返り元の身体に戻る。
今いる場所を確かめると、放たれた魔力によって樹木たちが消滅していて、新たに道ができてしまっていた。道の行き止まりからすぐさまに駆け出して元の道に戻ると、既に何人かが先を行っていた。
『3人、通り過ぎた……!』
すぐ目の前にいた王を無視して、抜け出した3人を追いかける。
しかし、背中から強い光が迸る。
樹木に立てかけた目玉から、様子を観察しているセシルが、慌てて叫んだ。
『また攻撃される……! 防がないと今度はこの道が広げらる……!』
「しかし、3人を追わないと!」
『城門を守る彼等を信じて……ヒューゴは道を広げないように王を止めて……!!』
「う……くそっ!」
走って行く3人の姿を止められなかったことを後悔しつつも、すぐに振り返って王の姿を視認する。
再び光を纏った大剣が大きく掲げられていて、今にも振り下ろされそうな状態であった。
せめて放たれる魔力の軌道を変えたい。
『噴火!!』
噴き上がる火炎で王の足元を揺らがせて、身体の均衡を失わせたのを確認しながら、俺は王に突進した。




