1人だけの騎士5
俺たちは無事に廃都を出ることができた。誰も欠けることなく、それどころか一行に3人が増えている。
赤茶髪の姉妹の名は、長姉はアルマ、次女はザトラ、末妹はカペラということが分かった。
リリベルに危害が及ばないように、常にカペラを寄せて刃を突きつけ続けて、アルマとザトラを牽制する。
「あーあ。お腹に君の子どもがいるのに歩きにくい砂漠を1人で歩かされてる」
「うっ」
「あーあ。吐き気もあるのに、君は私を無視して、カペラとかいうどこの馬の骨とも分からない女に夢中なのだね」
「リリベル、意地が悪すぎるぞ……」
「意地が悪いのは果たしてどちらかな」
シェンナもダナも、俺とリリベルの小競り合いを楽しそうに眺めていた。
そんなに俺たちの姿が面白いのか。
砂漠を歩き続けて、夜も間もなく明けるかというところであった。
試す神が看板として出現したが、結局俺たちに目立った後悔は表れなかった。
ヴラスタリやスーヴェリアは、怪我をして、何度も死にかけはしたが、悔いはないと言うし。
シェンナとダナも同じだった。
俺の依頼で道案内をすることはできたし、別に受けたついでの依頼も達成できている。悔いを残すことは何もなかった。
だから神の名前を冠しておいての、この平和な終わり方には、正直肩すかしを食らわされた。
もしかしたら、神の試練はこれから訪れるのだろうか。
丁度、そう考えていた時のことだった。
雲1つない夜空が突然、瞬き始めた。
煌めく星々は、1つ残らず光の尾を引きながら定位置から離れて行ってしまう。流れ星だ。
だが、そのさみだれのような星を見て、綺麗だとは思えなかった。
その星々の大半は空の向こう側へ落ちていくが、それ以外は徐々に光を拡大させて、地上に降り注いできたからだ。
豆粒のような大きさだった光は、僅かの間に巨大な燃える塊へと変貌する。
静寂の夜は、夜明けの太陽と星たちによって、空を輝きと喧騒で満たされていった。
遥か遠くに存在すると思っていた星は、意外と近い場所にあるのだなと思わせるぐらい、すぐに地上に落ちて来た。
星が1つ、また1つと落ちて来る度に、黒い点々が空高く舞い飛ぶ様子が見えた。
同時に、綺麗な輪が空に発生した。輪は一瞬で広がり、俺たちの頭上を駆け巡る頃には、爆発音を届けてくれた。
いくつもの輪が空のあちこちから広がって空を歪めていく様子は、その後に世界中で起きた惨事を深く実感させる材料になった。
星々の落下によって、地上にいる生物のほとんどが死滅した。
殆どの国がネテレロと同様に亡国と化した。彼等がこの世を生きていた痕跡すら、跡形もなく消し去った。
生き残った者は、途轍もない悪運を持った者か爆発を防御できる程の力を持つ者たちだけだった。
試す神が俺に与えた試練はここからなのだと直感した。




