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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第18章 2人の黄衣の魔女
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1人だけの騎士4

「なぜここに来てしまったんだ、リリベル」

「それは……むぐ……君が変な手紙を送るから……もぐ」


 リリベルは非常に機嫌が悪かった。

 夫が気になる手紙を送ってきたから心配になって探しに来たというのに、会ってみたら見知らぬ女を抱きかかえてパンを食べ合っている。その様子を見て、彼女が怒らない訳がない。




 赤茶髪の女には、セシルを通して沈黙魔法を詠唱してもらって、魔法を使えないようにさせている。

 奴の首元に黒剣を突きつけて、リリベルに対して下手な行動はしないように牽制させているが、リリベルはそれも気に食わないようだ。赤茶髪の女の行動に注意するために、付きっきりにならざるを得ない状況が嫌なのだろう。


 今の奴ができることは、黙って魔力で作った偽物のパンを食べることだけだ。




「カルミアの修行とやらはどうしたんだ?」

「無理矢理に終わらせたよ。君が心配だったからね……むぐ!?」




 2人の赤茶髪の女が先に現れる。

 恐らく、捕えた1人が魔法を使えなくなったことを察知して来たのだろう。


 奴等は1人でも無力になってしまえば、まともな魔法を使うことができない。


「やられた……妹を人質に取ってるわ」

「残念だね。こうなった時点で私たちの負けだよ」


 1人を人質に取ったまま、急いで2人に駆け寄って、新たにパンを分け与えて食べることを強要する。


「え……何」

「食え。良いから食え!」

「まだ何も言っていないのに」


 赤茶髪姉妹が平気でお互いを見捨てるような性格ではなくて良かった。

 1人が人質に取られている以上、残りの2人は俺がどれだけ意味不明な命令をしようと、従ってくれるつもりではあったらしい。




 その後は、全員でパンを食べながらスーヴェリアたちを探しに歩き続けた。


 黙する神(シーゲア)に、俺たちはここで生活しているとアピールするために、会話を続けながらひたすらパンを食べた。

 パンは魔力で構成されているため、食べても腹が満たされることはない。それ故に延々と食べ続けていられるはずなのだが、リリベルだけは食欲がないようで食べること自体に難儀していた。




 知る神(ケセロ)の知識に頼りながら、遂にスーヴェリアがいる場所に辿り着くと、向こうからもランタンの光で此方を照らしてきた。


 シェンナとダナ、ヴラスタリもいた。

 スーヴェリアはダナの背に乗っているが、生きていたようでホッとする。


 急いで彼等にもパンを分け与えようとしたが、彼等は既にパンを食べていた。

 俺とはぐれた後に、神の力を借りて本物のパンを作り上げたらしい。どうやって製粉を行ったのかは気になるところだが、とりあえず食事という行為をしているのならそれで良かった。




「で、そいつ等はどうするつもり?」


 シェンナは弓を軽く構えて、いつでも赤茶髪の女を撃ち殺すことができる準備をしていた。

 俺たちを狙った魔女たちに今更容赦は必要ない。


 俺が赤茶髪の姉妹に同情していなければ、殺気で満ち溢れているシェンナを諌めなかっただろう。


「俺に預からせてくれないか。誰も後悔しない結果にするために、殺したくない」

「まあ、俺は良いけれどよ」

「オレはヒューゴさんに賛成です」


 ここで最も死に近付いたスーヴェリアは気にしないと言ってくれたし、平和主義のダナも俺の意見に賛同してくれた。

 2人が賛成するならと、ヴラスタリとシェンナは渋々納得してくれた。




「何よ……私たちをペットにでもするつもり?」

「良いから今はパンを食ってろ」

「太らせて食うつもり……?」


 剣を突きつけている赤茶髪の女は末妹らしい。

 彼女は口調が荒い姉やリリベルみたいな口調の姉と違って、無邪気で従順だった。コイツは剣を突きつけても、特に感情が変化せず指示に従ってパンを黙々と食べ続けている。普通の無邪気とは違うのかもしれないが、人質にするなら3姉妹の中で1番適任であったことは、幸運だった。




 俺とリリベルのここでの用事は終わった。


 後は、そのまま全員で知る神(ケセロ)の助けを得ながら、リリフラメルと合流できた。

 そして、廃都の外に出る通路を進んで行った。

 いつの間にかダナが一杯の袋を持っていて、ちゃっかりと別の依頼で請け負った品の回収を行ったことを知る。抜け目のない2人だと思った。


次回は2月12日更新予定です。

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